忘暑




馬鹿みたいに蝉が鳴いていた。
室内にいるのにその声がよく聞こえるのは、窓を開け放っているからにほかならない。
風と呼べる程の風もなく、ただ生暖かい空気が窓を通して循環される。
首筋を汗が流れ伝い、なんとも言えない不快感に男鹿は顔をしかめた。

「あちぃ…」
「言うな!!」
堪らず呟くと、直ぐ様一喝。

「余計暑くなる」

声の主は、足元でベッドに凭れて扇風機の風を顔面に受けていた。

「…おい」
「なんだ、うるさい、暑い」
「扇風機占領してなに言ってやがる!」

最大風力を受け、明るすぎる髪が暴れている。

「つーか、冷房壊れてるなら先に言え!!
なんでわざわざこんな暑いとこにこなきゃいけねーんだ」
「知らねーよ!!
帰ったら壊れてたんだよっ!!」

暑いし外に行きたくないという神崎の意向を汲んで、男鹿の家へとやってきたのだが、部屋に入るなり電源を入れたはずの冷房はまったく働かなかった。
リモコンではなく、本体がいかれてしまったらしい。

「……つーか、神崎」
「なんだ」
扇風機に向かって口を開けた神崎からは、お決まりの震えた声が返ってくる。
「それやめろ」
風を孕んでシャツと髪が揺れ、汗が伝う項が露になる。
少し不快感が減り、神崎はそっと目を細めた。
ただ風を循環させるだけの機械なのに、あるとないとでは違う。
「なにを?」
「せ、扇風機の前で…シャツ、パタパタすんの…」
「暑いんだからしょーがねーだろ。
テメェはうちわで我慢してろ」
シャツの衿元を寛げ、更に涼を得ようと風を送り込む神崎に男鹿は視線を彷徨わせた。


「…そうじゃねーよ」
「ぁあ゛?」
「や、だから……」
「んだよ、ハッキリしねぇな」
「…なんでもねぇ」
「??」

わけわかんねぇ。また扇風機に声を吹き込んで戯れながら、すっかりぬるくなったヨーグルッチを飲んで神崎は眉根を寄せた。
生温い液体が喉を伝って、大好きなはずのその味も不快に感じてしまったからだ。
やはり流石に扇風機だけでこの暑さを凌ぐのは無理なのかと、どこかに出かけるべく男鹿を振り返ると音がしたかと錯覚するほど、視線がかち合った。

「――っ?!」
「…なんだよ?」

男鹿の顔が紅いのは暑さのせいだろうか。
予想外に目が合ったことに動転して、更に赤みは増していく。

「ぇ、いや…」
「さっきからなんなんだよ!!」
「…………たいな、て」
「あ゛?」
声が小さい上に、うちわで遮られていて聞き取りづらい。


「だ、だからっ!!

神崎に、触りてぇなって…思って、見て、た」

語尾は僅かに聞き取れる程度にまで小さく、それに従って男鹿の頭もどんどんと下がっていった。
瞬きを繰り返し、神崎は心底不思議そうに男鹿を見つめる。


「…なんで触んねぇの?」
「ぇ……いいのか?」

互いに疑問符を浮かべた顔を見合わせる。

「や、暑いし。
神崎、怒るかなって…」

「いや、暑いけどよ。
そんなの忘れさせるくらい熱くしてみせろよ」

「……お、おうっ!!」




駄犬よろしく、扇風機を蹴り飛ばして神崎に覆い被さった。











「暑ぃ……」
「テメェが扇風機ぶっ壊したからな」

「……リビングなら多分冷房つくけど」
「親、いんじゃねーの?」
「たぶん」
「んー…まぁここらで親御さんに挨拶しとくのもいいか」


「……お前、ほんと男前だよな」
「おう?」














扇風機で胸元チラリズムに萌えます。
団扇で胸元に風送り込むのはもっと萌えますが←←

神崎くんは対男鹿には主導権握る男前希望です。

それにしても冷房器具なしで致したりなんかしたら、熱中症か脱水症状起こしてしまうんじゃなかろうか。。。




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