かえりみち




好きか嫌いかときかれれば、どちらも。と答えるだろう。
素直に好きだなどと伝えたことはないが、恋人である以上、気持ちがないわけではない。
そして同時に、同じ男として、気にくわないのも確かだ。

どこが好きかときかれれば、漠然としていて答えにつまる。
逆にどこが嫌いかときかれれば、片手じゃ足りないほど、答えられる。




「………いいのか?それで」
















最後のチャイムが鳴ってから数分後。
いつもの時間に、姫川が3-Aの教室の扉を開ける。
中央でふんぞり返っている神崎を真っ直ぐに見つめ、片手をあげて誘い出す。
一月ほど前から日常になった風景。
始めこそどよめきがあった教室も、今では誰も気にする様子もない。
連れだって帰る姿にどよめくのは、街の不良くらいのものだろう。

「…………」

いつも無駄に喋る姫川が今日はやけに静かで、神崎は無言のままストローを思い切り吸った。
チラと横目に姫川を見上げると、眉尻の下がった間抜けな顔で、なんだかそわそわと視線を彷徨わせている。

「…なぁ、神崎」
「ぁん?」
「ぁ、いや……」

やっと口を開いたかと思えば、また黙りこんでしまった。
今日は姫川の家に行くのだろうか。それともそれぞれ帰るのか。
もうじき別れ道だ。

「……おぃ、ひめか――」
「神崎っ!!」

どうするのだと声をかけようと隣を見やり、目が至近距離で合って神崎は瞬いた。
名前を呼ぶと同時に手を握られ、グッとひかれる。
やっぱり行くのか。と大人しく引かれるままついていってやる。

「………?」
別段抵抗もしないのに、姫川の手は離れず、握られたまま暫く進んだ。
少し前から手をひかれて歩きにくくて仕方ない。
握られた手を振りほどこうと揺すると、姫川が歩みを止めた。

「…なんだよ」
「……嫌か?」
「は?なにが」
「…手、繋ぐの、が」
「…………」

今の、手を繋いでるつもりだったのか。
また目を瞬いて、不思議なものを見るように姫川を正面から見つめる。
珍しく照れた様子で視線を逸らす姫川に、なんだか笑いが込み上げてきた。

「お前、バカだろ」
「…っな!?」
「素直にそう言やいいのに」
「ぇ…?」

今度は姫川が目を見開いて、神崎を見つめ返す。
暫くの間、止まったように見つめてくるのに耐えきれずに神崎はゆっくりと歩き出した。
慌てて姫川が後を追う。
隣にまで辿り着いて、恐る恐る指先で神崎の拳に触れる。
振り払われないのを確認して、そっと指を絡めた。

「……今だけ、許してやる」

小さく神崎が呟いて、指先に少し力が籠められた。



「憧れてたんだ、こういうの」



あまりに幸せそうに言うものだから、つい小さく舌打ちが漏れた。
馬鹿じゃねぇの。












どこが嫌いかときかれれば、片手じゃ足りないほど、答えられる。
逆にどこが好きかときかれれば、漠然としていて答えにつまる。

明確なものはこれといって思い付かないけれど。



「……いいのか、これで」



それはきっと
どうでもいいことなのだ。









なんかもっと、甘酸っぱい?高校生っぽい話にしたかった。
姫川のヘタレっぷりが描ききれず残念です。。。
途中何度も、触れそうで触れられない不審な動きを繰り返してたにちがいない。
なぜか神崎くんが男前?になりました。たまには、ね。




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