HONEY 「なぁ、今日俺ンちこないか?」 「……お前ンち?」 極自然に誘ったつもりだったのに。たっぷり時間をおいて、訝しむ目線で見返された。 うっわー。 チョー怪しんでるよ。 信用ねぇなぉ、俺 …ま、その通りなんだけど 「うまい菓子がてに入ったんだよ。 冷凍だから学校には持ってこれねぇの。 特注の高級品だぜ」 「………」 おぉ、揺らいでる揺らいでる。 菓子があるのは嘘じゃない。 勿論、このためにわざわざ海外から昨日取り寄せたのだ。 「………行く」 マフィンとスコーンに紅茶。 甘い物好きの神崎のために、クロテッドクリームとジャム。 紅茶に入れるハチミツまで用意した。 テーブルに並べるのを見つめる神崎の目が輝いている。 なんなんだもう。 可愛いな、おい。 俺、金持ちでよかった。 「ほら、遠慮なく食えよ」 嬉しそうに手を出そうとして 止まる。 なんだ? 「どうした?」 「…………」 菓子と俺を交互に睨む。 なんだ、おい。どうした。 「なんか気にいらねぇのか?」 「いや… お前のことだから、なんか仕込んでんじゃねぇかと思って」 「っおい!!?」 ほんと信用ないのな、俺。 まぁ、それも考えなかったわけじゃないから、顔が少しひきつっているかもしれない。 なるべく平静を装い、平坦な声をだす。 「食わないならいい」 わざと聞こえるように溜め息をついて、片付ける素振り。 すると、慌てた様子で服の裾を掴まれた。 …裾って、おい。 生唾が喉を通りきるのを待ち、神崎の顔を覗きこむ。 「ん?」 「…食う。 てか顔近ぇよ、寄るな馬鹿!!」 それ、人にお願いする態度じゃねぇだろ。 だが、あんまりからかってここで帰られても困る。 「はいはい、お姫様」 「お前まじキモい。死ねば?」 「………」 絶対あとで泣かしてやる。 色んな意味で。 「どうよ? うまかったろ」 「ふんっ。まぁまぁだな」 「あっそ…」 幸せな顔しちゃってまぁ。 「そういや、この間見たいっつってた映画、偶然手に入ったんだけどよ。 見るか?」 なんて。 すっげ根回しして手に入れたんだけどな。 なんたってまだ日本では試写会すらまだだ。 予想通り、更に機嫌のよくなった神崎は、おう!と笑った。 ここまでしてやっと笑顔だ。 やっかいなやつを愛してるって自覚はある。 「お前、ここな」 そう言って、神崎をソファに誘導し、座った自分の脚の間に無理矢理座らせる。 背中から腕をまわそうとした瞬間、殴られた。 顔はやめろ、顔は。 「なに気持ち悪いことしてんだ、こら」 「いーだろ、これくらい。 こんだけしてやってんだから」 「…帰る」 いやいやいや、まてまてまて。そんなに嫌か!! 「観なくていいのか。映画」 「………」 立ち上がった神崎が動きをとめる。 「映画の後、飯もいいケータリング予約してんだけどな」 「…………」 もう一押しか。 「なんもしねぇって。 ひっついて座りたいだけ。な?」 両手の平を見せて服従のポーズ。 「なんかしやがったら殺す」 「なんもしない。誓う」 「………ちっ」 渋々といった風にだが、神崎は俺の脚の間に収まった。 単純なやつ。 「おら、さっさとつけろよ!」 恥ずかしいのか早くしろと急かすそれすら、俺に抱き込まれた状態だとやけに可愛い。 思ってた以上にいいな、これ。はいはい。と頭を撫でたら今度は頭突きされた。 「痛ぇな、おい」 頭をつきだしただけの頭突きだからさしてダメージはない。 リモコンを操作し、照明、カーテン、AV機器を起動。 おぉ!と脚の間で神崎が小さく揺れた。 どうやらお気に召したようだ。 完全に映画の世界に入ったらしい神崎は、一緒になって緊張したり驚いたり忙しい。 そんな様子は微笑ましくてたいへんよろしい。 が。 俺はもっと可愛い神崎が見たいんわけよ。 主に俺の下で可愛い状態が。 そのためにここまで尽くしてやってんだ。 集中しきっている神崎の肩に顎を乗せ、抱き締めた腕に力を入れてみる。 どうやら、俺のそんな動作は気にならないくらい集中しているらしい。 普段ならすでに殴られてる。 いい気になって、項に鼻先を押し付けた。 神崎の匂いがする。 香水なんてつけない神崎の体からは、いつも独特の匂いがした。 その日神崎がすごした跡が、匂いとなって残る。 それが俺は無性に好きだ。 もちろん嫌なやつの匂いをつけてくることもあるが。 その匂いを嗅ぐだけで、神崎の1日を得たような気になる。 今日はおとなしく俺に抱き込まれていたせいか、神崎からは俺がつける香水の香りがした。 自分の香りが相手につくって、なんかエロい。 そのまま首筋、耳の裏と鼻先を擦り付け、堪能する。 「…おい、姫川」 神崎が、画面から目は逸らさないまま、声だけで俺を呼んだ。 「んー?」 俺も動きを止めず、声だけで答える。 「やめろ、それ」 「なにを?」 「匂い嗅ぐの。 駄犬かテメェは」 「血統書付きだっつの」 ツッこむのそこかよ。とため息がきこえる。 まだ怒ってはいないらしい。 そのまま鼻先をずらして耳朶を甘噛み。 犬歯で緩く刺激してやると、神崎の肩がはねた。 「…ってめ、いい加減にしろ!! このモサヌメリーゼント!!!」 振り向き様に振り上げられた腕を掴みとる。 予想していた反応だから簡単だ。 そのままソファに押し倒し、組み敷いた。 暴れる神崎は、嘘つきだのクソ野郎だの叫んでいるが知ったことか。 「"誓い"ってのは破るためにあるんだよ」 サングラスをはずして笑ってやると、喉元に噛みつかれた。 どっちが駄犬だ。 「卑怯者!!お前まじ最悪!!!! 死ね変態!!!!」 ここまでくれば、もうこっちのものだ。 いくら悪態をついたところで、結局最後は流される。 最後には、俺を求めるくせに。 「卑怯で結構。 知ってるだろ?」 ハニカムハニ 騙されたフリして ほんとはわかってたんだろ? 初書き姫神。 副題は、akitsu的姫神ソングです。 きいてて滾った結果がこれです。 ぜひ姫神スキーさんにきいて頂きたいです!! ← |