春うらら




屋上へ続く重い扉を開く。
隙間から春の陽射しが射し込み、暗い階段に一筋のラインを描いた。
どこか埃臭い踊り場にまだ少し冷たい風が吹き込む。

体重をかけて押し開き、一歩足を踏み出すと、眩しさに目を細めた。
大きく伸びをひとつして、雲が疎らに浮かぶ空を見上げる。
この天気に誘われるまま、ここへやってきた。
陽射しは柔らかく暖かだが、気温まだ低いようで、シャツから覗く腕が少し肌寒い。

「……ん?」

視界の隅、ちょうど入り口の影になった辺りにチラチラと光るのが見えて視線を振る。
壁にもたれ掛かって、眠る人物がひとり。
チラチラと光っていたのはひどく明るい彼の髪だった。

「…なにしてんだ、こいつ」

規則正しい寝息をたてて眠る姿はひどく無防備で、いつもの様子からは想像できないほど幼く、年相応に見えた。
それが珍しくて、つい見入っていると、ふいに冷たい風が肌を撫でて身震いする。

「こんなとこで寝てたら風邪ひいちまうぞ、バ神崎」

そう声をかけるが、起きる気配はなく、呆れて溜め息ひとつ吐いて傍にしゃがみこんだ。

「寝てれば可愛げもあんのに…」
覗き込むと、陽射しが遮られ寒くなったのか、猫背を更に小さく丸める。
シャツをかけてやろうなんて思ったのは、彼があまりに幸せそうに眠っていて、毒気を抜かれたからか、たんなる気紛れか。
シャツを脱いで肩からそっとかけてやろうとしたところで、神崎が小さく身動ぐ。
伺うように視線を顔に向けて、何故だか視線を外せなくなった。
神崎はまだ眠っているようで、睫毛が微かに揺れているだけだ。



「神ざ「神崎さーん!!」
「………っ!?」

突然扉から聞こえた声に、シャツを投げ捨てるようにその場から駆け出した。
開いた扉に駆け込んで、内側にいた城山と肩をぶつける。
気にせず、階段をかけ降りた。

「姫川?」
訝しみながらも、それより優先することがあると扉を潜り、目当ての人物を探して視線を振る。

「神崎さーん!
…あ、そんなところにいたんですか」

扉の影になって見えにくい場所に神崎の姿を捉えた。
「ヨーグルッチ買ってきました…よ。
どうかしました?」

口元を押さえて踞る神崎に、何かあったのかと駆け寄るが、瞬間払いのけられる。
近くに見覚えのある派手なアロハシャツが落ちていて、更に首を傾げた。

「息が……」

「神崎さん、大丈夫ですか?」






息がかかった唇がまだ熱くて、掌で押さえてみるが、治まりはしなかった。
寝起きの頭で考えても、答えは見えてこない。
ただ、顔だけがやけに熱かった。










「意味わかんねぇ…」












まだ自覚してない頃の二人。
季節外しててスミマセン。。。
ちなみに未遂です。
姫川の無意識の行動から、お互い意識し始めればいいよ!!




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