priority 〜〜♪ 短いメロディと微かに振動する音がして、視線をチラとそちらに向けた。 姫川が携帯を操作して、何かしら入力している。 画面から目を逸らしたかと思えば、またすぐにメロディが流れた。 先ほどからこの繰り返しで、隣の神崎は手持ち無沙汰に空を見上げている。 陽射しもかなり強くなり、吹く風もどことなく熱を孕んでいて、あまり心地いいとは言えない。 空になった紙パックを握り潰し、立ち上がって大きく伸びをひとつ。 姫川が視線だけで見上げてくる。 「どうした?」 「…戻る」 「え…なんで」 「なんでも」 まだ昼休みは半分ほど残っているのに。と引き留める姫川の声は無視して、神崎は一人、教室に戻っていった。 教室の扉を乱暴にあけ、周りの椅子が倒れるのも気にせず、勢いよく自分の定位置に腰かける。 城山が不安そうに、夏目は興味を隠さない笑顔で神崎に近寄って、思い切り睨み付けられた。 「姫ちゃんと喧嘩でもした?」 姫川の名前に僅かに反応して、更に眉間に皺が寄る。 神崎はどう贔屓目に見ても素直とは言えない性格だが、表情や仕草はとても素直だと夏目は心中微笑んだ。 「別に… あいつといてもつまんねぇから戻っただけだ」 「ふーん…」 暫く何かを考えるように視線を彷徨わせ 「…姫ちゃん、携帯依存症だものね」 確信を持って発せられた言葉に、城山から渡されたヨーグルッチをそのまま吹き出した。 「……っおま」 「ぁ、やっぱり? だと思った」 「…………」 見てたんじゃないだろうな…。 夏目は神出鬼没で、神崎はその思考も行動も、未だに掴めないでいる。 うすら寒さを感じながらも、思い出すとまた姫川に対する苛立ちが沸々と沸き上がってきて、机に乱暴に脚を投げ出した。 「…四六時中、携帯弄りやがって。 女子かっつーんだよ!!」 堪らず吐き出された声は、独り言なのだろう。 小さく呟かれたのをしかし、夏目は聞き逃さず、楽しそうに笑う。 それがまた神崎の勘に障った。 「っんだよ、夏目?!」 「いやー。 携帯ばっかで構って貰えなかったら寂しいよね。って」 「っ!? 誰が寂しいなんつったよ!! 女々しくてウザイって言ってんだ!!」 神崎が立ち上がる前にサッサと側を離れ、ごめんと全く悪びれた様子もなく笑いながら、夏目は教室から出ていった。 苛立ち紛れに城山を蹴ってみたが、気持ちは晴れない。 「神崎、いるか?」 突然扉から聞こえた声に、教室中がしんと静まり返る。 教室の中央で、理不尽に怒りを撒き散らす神崎の不機嫌の元凶が現れたからだ。 そんな空気に気付きもせず、名前も知らない男子生徒の胸ぐらを掴む神崎を見つけ、素知らぬ顔で声をかける。 「なにしてんだお前」 「テメェこそ、なにしに来た!? モサヌメ野郎!!」 「は?なに怒ってんだ?」 「ッテメェ…ッッ!!!」 掴んだ生徒を放り投げ、姫川に大股で近寄ってくる姿に、理由はわからないながらも殴られるかと身構えた。 しかし、肩を勢いよくぶつけて撥ね飛ばし、神崎はそのまま教室から出ていってしまう。 「……おい、神崎?」 わけがわからず城山や周りを見回すが、誰もが視線を逸らせて合わせようとはしない。 仕方なく、後を追うことにした。 「おい!神崎っ!!」 ← |