trifles 「暑ぃ…」 焼けるような陽射しであればまだよかった。 どちらかと言うと、蒸されているような暑さに、拭っても拭ってもじわじわと汗が滲み出てくる。 買ったばかりのアイスは既に表面が溶け出していて、慌てて舌を這わせた。 「―っぅわ!?」 追うように寄せられた長い舌に驚いて、アイスを取り落とす。 地面に当たって、脆く崩れた。 怨めしく舌の主を睨めば、唇を舐めて眉根を寄せている。 「…あま」 「ッテメェ!このモサヌメリーゼントッ!!!」 胸ぐらを掴みあげれば、当然のように睨み返してくる。 「落としちまったろーがっ!!」 「お前がエロい食い方するから悪い」 「リーゼントのしすぎで頭湧いてんじゃねぇのか、この変態!!」 「無自覚かよ!たち悪ぃわっ!!」 「わけわかんねぇ!! つかそのリーゼントやめろ! 見てるこっちが暑苦しんだよっ!!!」 「は?俺の勝手だろぅがっ!?」 公園で、殴りあいでも始めそうな勢いで怒鳴る二人に、子供連れの母親がそそくさと離れて行った。 「怒るとこ、そこなんだ」 「神崎さん…」 少し遠巻きに、夏目と城山は二人を見守りながら、自分のアイスをさっさと食べ終える。 「…見てるこっちが暑いよねぇ」 「アイスひとつで煩いやつだな!」 「なっ?! もとはといえばテメェがっ!」 まだ言い争いを続ける二人は、既に汗でシャツが全体的に変色していた。 「買えばいいんだろ?! んなもん、いくらでも買ってやるわっ!!」 「その態度が気に食わねーんだっ…っよ…?」 とうとう蹴りを入れようと、神崎が脚を高く持ち上げたかと思うと、そのまま後ろ向きに背中から倒れてしまう。 防御の姿勢のまま、呆気にとられて固まる姫川を押し退けるように、慌てて城山が駆け寄った。 「神崎さんっ!?」 姫川のマンションの一室に運びこんで、一時間ほど。 神崎はベッドの中でゆっくりと寝息をたてている。 念のため医者に診て貰ったが、軽い脱水症状で、体に問題はないという。 「姫ちゃんのせいじゃないよ」 ベッドにかじりついて離れない姫川に夏目が声をかけるが、項垂れたまま、顔をあげようとはしなかった。 仕方ないとばかりに、城山に首を振って見せ、買い込んだペットボトルやヨーグルッチを冷蔵庫に入れて、城山を連れて部屋を出る。 「俺たちも気をつけないとね」 「神崎さん、おいてきてしまって大丈夫なのか?」 「姫ちゃんがいるから大丈夫だよ。 むしろ俺たちがいたら、また拗れちゃうだろうし」 「そういうものか?」 「…神崎くん、ツンデレだから」 「………」 城山は複雑な表情を浮かべていたが、気にせず、半ば押しやるようにして、マンションを後にした。 「……ん…」 神崎の瞼が僅かに揺れて、小さな音が喉から漏れた。 「神崎っ?!」 思い切り顔をあげると、瞼を開いた神崎と真正面から目が合い、あまりの勢いに面食らった顔で見つめられる。 「ぁ…大丈夫、か?」 「ん…おぅ。 つか俺、なにしてんだ?」 瞬きを繰り返し、部屋と姫川を交互に見遣って、眉を寄せた。 姫川はひどく言いづらそうに、俯いたまま事の経緯を説明する。 神崎も話をききながら、自身が情けないのか、眉根を寄せた。 「…とりあえず、水飲むか?」 「ん」 小さく頷く神崎に、ペットボトルを手渡す。 一気に煽って、喉が忙しく上下するのを見つめ、ひどく安心して、姫川の口からため息が漏れた。 「…よかった」 「ん?」 ほぼ無意識に発せられた声に神崎は、空になったペットボトルを姫川に押し付けながら、顔を覗き込む。 今にも泣き出しそうな表情をしていて、目を瞬いた。 「お、おい、姫川?」 「…すげぇ、心配した」 「………」 「一瞬、マジで頭とんだし」 「……ひめ」 「心臓止まるから…マジ、もうやめてくれよ」 「ん…悪かった。 気を付ける」 不安気な瞳に、気づけば無意識に姫川の髪を撫でていた。 普段は髪に触れただけでも怒るのに、おとなしくされるがままの姫川は珍しく、神崎も撫で続ける。 「かんざき」 「ん?」 「好きだ」 突然の言葉に暫し考えるが、返す言葉はひとつしかなくて、小さく耳元に囁いた。 「……俺も」 喧嘩の原因なんて、 とっくに忘れていた。 暑いよねー。という思いだけで書いた。 そして撃沈orz 暑さでダウンしてるのは私です…←←← 神崎くんは低血圧だったり不健康そうだな、と。それも萌えますwww 姫川はメッチャ心配してテンパッて夏目に落ち着け!!って怒られたりしたと思うの。 ← |