××× 「お前ら…なにしてやがる」 自宅の主に生活の基盤としている部屋の扉を開けると、玄関が靴で埋めつくされていた。 もちろん、自分のものではない。 慌ててリビングへと駆け込み、視界に広がる光景に、顔がひきつった。 床に思い思いに座る、呼んだ覚えのないクラスメイト達。 けして安くないテーブルには、これでもかとスナック菓子の袋が広げられている。 真剣にトランプを選んでいた神崎が、一枚を抜き取ってから、姫川に片手をあげた。 「よぉ。遅かったな」 「……ただいま」 あまりに自然に声をかけられて、咄嗟に返す言葉がそれしか出てこなかった。 「あがりッスー!!」 という花澤の甲高い声で、我に帰る。 「って、そうじゃねーよ!! テメェら人ンちでなにしてんだ!?」 「トランプ」 「遊んでる」 「見てわかんないのか、ハゲ」 「だからっ!! なんで人ンちで勝手に遊んでんだっつってんだよ!?」 叫ぶ姫川に反応したのは花澤だけで、他は気にもとめずにゲームに勤しんでいる。 一度でもこいつらを家に招き入れたのがまずかった。と今更後悔しても遅い。 溜め息を吐いて姫川は、諦めて一人、食事をしようと電話を手に取る。 「俺、寿司がいい」 「………」 「上くらいで。ウニ多め」 「あ、んじゃ俺は鰻がいい」 「夜食はピザだろ」 口々に好き勝手言い出す招いた覚えのない客人達に、額の青筋は増すばかりだ。 「神崎はともかく… テメェら、いい加減にしねぇと放り出すぞっ!!」 結局、それぞれが希望した出前をとり、何を言っても無駄だと諦めて、姫川も輪に加わった。 「お前ら、一体いつからこんなことしてんだ?」 「学校終わってすぐ」 「ずっとトランプか?」 「いや、格ゲーとかもしたけど」 「寧々さんが壊滅的に弱いんで」 「う、うるさいっ///」 ということは、軽く3時間以上はカードゲームをしているわけだ。 どれだけ暇なんだ、こいつら… 「ま、俺が入るからには、ただのカードゲームにはしねぇけどな」 「なにするんすか?」 そこで勿体ぶってサングラスを押し上げる。 「賭けようぜ。 もちろんテメェらに金なんて期待してねぇから安心しろ。 …そうだな。 ビリのやつが、一番のやつの命令をなんでもきく。ってのはどうだ」 全員の視線が姫川へと集中し、次の瞬間、思い思いの方へと移る。 自分が買ったら何をさせよう。 わかりやすく、全員の瞳が欲望に輝いていた。 「…あたしはパス」 唯一異論を唱えたのは大森で、輪から少し外れる。 「なんだ、ビビったのか」 「変な命令されたらたまんないからね。 あんたらもやめときな」 そうして花澤と谷村に視線をやるが、二人はすっかりやる気だ。 負ける気のない無敗の谷村はともかく、花澤は自分が負けた時のことをただ考えていないだけだろう。 「…知らないからね」 「…神崎先輩」 「…なんだ、パー子」 「負けてください」 「バカ言うな!! 絶対負けられねぇんだよっ」 「うちもダメなんっす!!!」 おそらく世界で一番シンプルで有名なカードゲーム。 ババ抜きが一回戦の種目だった。 早々に姫川、谷村があがり、ついで夏目、古市、城山。 感情が顔に出てしまう神崎と花澤が大方の予想通り残り、二人になってから何回目になるかもわからない攻防が続いている。 姫川が一位になった時点で、神崎は負けるわけにはいかなかった。 一方花澤も、姫川が一位の時だけは負けるわけにはいかないのだ。 というのも、花澤にはまったく心当たりがないのだがここ最近、姫川から明らかに敵視されているからにほかならない。 初めは気のせいかとも思ったが、ことあるごとに睨まれていれば、流石に花澤と言えど気付く。 大森に一度相談したが、苦笑され、神崎にあまり近付くな。とだけ言われ、まったく理解できなかった。 が、理由がわからないにせよ、恨まれているならここで負ければ何をされるかわかったものではない。 「うー……」 神崎の握りしめる二枚のカードを睨む。 取りやすく手前に出してあるのはもちろん危険だ。 だがそれはあまりにも単純ではないか。 裏をかいてやはり奥のカード…いや、裏の裏をかいてるのかも…。 ふと神崎の背後、口元を歪ませて笑う姫川が目に入った。 こちらに視線を向け、指先が左、奥にあるカードを指し示している。 「………」 信じていいのだろうか。 「おい!早くしろ、パー子!!」 「は、はいっす!!!」 痺れを切らせた神崎に怒鳴られ、咄嗟に左のカードに手を伸ばす。 瞬間神崎の顔がしかめられたが、目を閉じた花澤は気付かず、そのまま力任せにカードを引き抜く。 「……っやったー!!」 恐る恐る瞼を開く花澤の手には、ダイヤの8とクローバーの8が2枚。 神崎の負けが確定した。 背後で姫川が咽の奥で笑う気配がして、神崎はその場から飛び退く。 ソファに悠々と腰かけた姫川が、口角を吊り上げて神崎を見下ろしていた。 「お前の負けだな、神崎」 「くそっ…!!」 「何してもらおぅかな」 「っ誰がテメェの命令なんか!!」 「ぁあん? 男らしくねぇなぁ、神崎。 テメェが負けたからって罰ゲームはなしってか」 「………っ」 言葉に詰まる神崎を姫川はさらに追い詰め、追い討ちをかけるように周りが同調する。 「あー、くそっ! ききゃあいいんだろ!! なんだ、早く言え!!!」 腹を括ってソファの前に仁王立ちする神崎の片手を引き寄せ、姫川はたっぷりと時間をおいて口を開いた。 「キスしろ」 一瞬にして部屋が静まりかえり、次の瞬間神崎の怒声がそれを撃ち破る。 ついで、夏目の爆笑。 「っななな何言ってんだ! この、モサヌメリーゼントッッ!!!」 咄嗟に口を押さえて跳び退ろうとするが、掴まれた左手のせいでうまくいかなかった。 助けを求めるように周りに視線を遣るが、溜め息を吐いて視線を逸らされるばかりだ。 花澤と谷村だけがこちらを見ていたが、興味津々といった様子で助けになりそうにはない。 「このハゲッ!!変態野郎!!! 放せ、ばかっっ!!!」 「おいおい、神崎。 男に二言はねぇんじゃねーのかよ」 「うるせぇっ!! 男にそんなこと要求するやつに言われたくねぇ!!」 片腕で攻防を繰り返す。 見かねた夏目が、神崎の肩を軽く叩いた。 「神崎くん」 「なんだっ!?」 「そうやって勿体ぶるから、余計恥ずかしくなるんだよ」 「勿体ぶってんじゃねぇっっ!!!」 「あぁ、うん。そこはいいんだけどさ。 サッサとやっちゃえば恥ずかしくないって。 罰ゲームなんだしさ」 尤もな意見に、暫し神崎も黙りこむ。 普段使わない脳をゲームに続いてフル回転させ、渋々頷いた。 「…テメェは触るんじゃねぇぞ」 しっかりと睨みをきかせてから、罰ゲームを実行するべく姫川に近付いた。 見上げて笑う目に唇を噛み締める。 ぜってぇ後で殺すっ!!!と不穏なことを思いながら、ソファの背に両手をついて、姫川と向かい合ったが、どうしてもそれ以上近付けない。 「どうした?早くしろよ」 「っわかってる!!!」 姫川が勝ち誇るように笑って、また青筋が浮き上がる。 くそっ…。もう一度大きく舌打ちをして、目をきつく閉じて唇を押し付けた。 触れるだけですぐに離れようとした神崎を姫川が逃がすわけもなく、頭を引き寄せて、きつく閉じられた唇を割って舌を差し入れる。 目を見開いて暴れる神崎を全身で押さえつけ、神崎の唇を堪能した。 「―……はっ…ん」 たっぷり数十秒。 やっと解放された神崎が力なく崩おれるのを掬い上げ、姫川はソファからゆっくりと立ち上がった。 「んじゃ、俺らは隣の部屋に行くから。 テメェら飽きたら帰れよ。 オートロックだから勝手に出てきゃいい」 「っ放しやがれ姫川ぁっ!!! 殺す!!!テメェぜってぇ殺すっっ!!!」 「あーはいはい。 それベッドん中でいくらでもきいてやるから」 そうして押し開けられた扉が閉じると同時に、神崎の叫び声もその高級な扉によって遮られた。 「ぅわー…姫川先輩パねぇっす!!」 「……見た」 「……だから知らないわよって言ったのに」 大森の溜め息が誰もいなくなった廊下に小さく響いた。 リクエスト:姫神 "ゲームかなんかの賭けに負けて神崎くんからチュウ" >とんかつさま 大変お待たせいたしましたっorz もう何回土下座しても足りませんっ> < 素敵リクを頂いて、どっちも滾ったのですが、時期的にこちらで書かせて頂きました。 お待たせした上にこんな出来で申し訳ないです←← もっとキスシーンの恥じらいとか表現したかった…orz 返品書き直しいつでも受付ます! これに懲りず、またご参加くださいませ。 リクエストありがとうございました!!! ← |