How u smile




あの時の君の笑顔を

俺は一生忘れないだろう












ロッカールームで制服に着替え、タイムカードを押す。
店に出ると、学校帰りらしい女子高生が数人、試供品を使って堂々と買いもしないメークをしていた。

大学生になり、法律上も問題なく、飲酒喫煙が許される年齢にもなった。
店は違えど、結局またドラッグストアで変わらずアルバイトをしている。
一人暮らしも慣れていて、特に代わり映えもしない。
変わったことと言えば、長かった髪をバッサリと切ったことと、彼が隣にいないことくらいだ。
近くにいようといまいと、もちろん心が変わることはない。
昔から、何故か女性には好かれる傾向にあり、入学してからも何度も告白は受けたが、よく知りもしないのに愛だの恋だの仄めかすのは一向に理解できない。
戯れに付き合ってもみたが、こちらに全く好意以前に興味がないと悟ると離れていった。
結局、俺自身が変わらなければ何も変わらないのだ。

開け放たれた扉から夕陽が射し込んで、眩しさに目を細める。
網膜に光が焼き付いて、ぼんやりと曖昧になった視界に、懐かしい影が重なった。
夏の陽射しはいつも、彼の鮮やかな髪を思いださせて、苦しいようで暖かい、複雑な気持ちにさせる。
自嘲して、仕事に専念しようと瞼をそっと閉じて開いたが、影は消えることなく、こちらを見つめているようにさえ見えた。




「――…かん、ざき君?」

それが影や残像などでなく、現実の存在だと認識した時には、その人影は去ってしまっていて。
慌てて店先に出てみるが、もうそこには誰もいない。
見間違いか。もしくは店を覗いただけの客かもしれない。

「まったく成長してないな…」
そうしてまた自嘲した。














「お疲れさまでしたー」

来た時と同じようにタイムカードを押して、着替えを済ます。
店長を手伝って棚の入れ替えをしていたら、いつの間にか23時を過ぎてしまっていた。
どうせ食事はコンビニで買うだけだから構わないけれど。

扉を開けて、裏に止めた二輪を確認する。
暗闇の中浮かび上がるシルエットが、自分のものであるはずのそれに寄り掛かる人影も写し出す。
最近は物騒だから、鍵を壊して盗む輩もいるときく。
勿論、そこいらの不良やなにかに負ける気はしないが、できればアルバイト先でトラブルは起こしたくないので、近付く前に声をかけた。
人影が揺らいで、こちらに向き直る。
薄暗い街灯に映し出されて、薄ぼんやりと顔が浮かび上がった。
口元に見慣れた傷痕と、キラリと街灯を弾くチェーン。



「………神崎、くん?」

「遅ぇよ、夏目」








近くのコンビニまで二輪を押しながら歩く。
夜目に慣れたのと、大通りに出て幾分明るくなったのとで、彼の姿をはっきりと捉えることができた。
少し暗くなったように感じないでもないが、街灯を跳ね返して光る髪は鮮やかな黄金色のままだ。
相変わらずアクセサリーも至るところにぶら下がっている。
たった2年やそこらで、それほど変わることもないのだ。となんだか安心した。

「変わらないね」
「…お前は変わったな」
「そう?」
「一瞬、わかんなかった」

それで暫く店先から覗いていたのだと知れる。
やはり、見間違いなどではなかったのだ。
しかし、あれから待っていたとなると…

「神崎くん、まさかずっとあそこにいたの!?」
「んなわけねぇだろ。
ゲーセン行ってた」
「ゲーセン…」

やっぱり変わらない。と笑うと隣で眉根を寄せるのがわかった。

ひどく久しぶりに会ったにも関わらず、とても自然に会話ができたように思う。
コンビニで軽い夜食と缶ビール、それから例の紙パックを買い込んで、俺の家に向かった。








「まだそれ、好きなんだ?」
当然のようにソファを陣取って、紙パックにストローを刺す姿が微笑ましい。
「これよりうまいもんがない」
「ビールは?」
「苦い」
飲めるけど…。と言い訳がましく続けて缶に手を伸ばそうとするから、その手を掴んで代わりにジュースを注いだグラスを手渡した。
「美味しくないもの、無理に飲むことないよ」
「…ん。さんきゅ」



暫くテレビをつけっぱなしにしていると、古びた映像の外国映画が始まった。
昔話も一段落したのもあって、二人ソファに並んで映像を眺めた。
フランス語だろうか。
聞き取りずらい外国語な上に映像もひどく抽象的で、字幕を目で追わないと、話が全くわからない。
特別興味があったわけでもないのに、目で必死に追ってしまっていた。
彼も同じらしく、画面をじっと見つめている。
元より彼は、映像を見る時には世界に入ってしまうくせがあった。

「…変わらないな」

独り言のつもりで呟いた。

「変わらないものなんてねぇよ」

予想外に応えが返ってきて、驚いて視線を隣に向けるが、彼は画面を見つめたままだ。
そのままじっと見つめると、ゆっくりと唇が開かれる。

「…あいつとは、別れた」
「………そう、なんだ」

変わらないものなんてない。
彼の言葉が頭の中で反響した。変わったのは、彼の心か。それともその相手か。

「卒業して、すぐぐらい」
「ぇ…?」
「…卒業してからも、
夏目のことが気になってて」
「神崎、くん…」
「なんか、あいつの顔、まともに見れなくて…
正直に話したら、すっげーキレられた」
「…………」
「自分でも、よくわかんなくて…
お前に会うのも…なんか怖かった…」

返す言葉が見つからなかった。
彼の言わんとしていることも掴めない。


「……なぁ、変わらないものなんて、本当にあると思うか?」













「……あるよ」

それだけは、答えられる自信がある。
そこで初めて、彼がこちらを振り向いた。
揺れる瞳と視線が絡み合う。



「俺の気持ちは変わらないよ」

「…………」

「だって、神崎くんに誓ったもの」

「……わけわかんねぇ」



それ、前にも言ったよ。と笑えば、彼もつられたように笑った。
期待を込めて、頬に手を添えてみる。
逃げ出したりはしなかったけれど、肩が少し震えた。


「ねぇ、神崎くん」
「…ん」
「それってさ…期待、しちゃうよ?」


















「………すれば?」



片方の口角が引き上がる。
チェーンがつられて揺れた。




その笑顔に引き寄せられるように

彼の顔に影を落とした。

















「……神崎くん。
一生、君が好きだよ」























やっと終わりました。
なんとかハッピーエンドに!!!
間あいちゃってスミマセンorz
まぁ、かなりの自己満だったので、読んでくれてる人がいたのかすら怪しいわけですが←
とりま完結できてよかったです。
姫神が一番なんですが、書くのは夏神,男神が楽しく書けて好きです。
神崎くんがツンツンしないからかもwww

ここまでお付き合いくださった方(いらっしゃったら、ですが…)、ありがとうございましたm(_ _)m




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