所有物 自分の恋人は 特に自身に向けられる好意に鈍感だと、男鹿辰巳は思う。 そういう環境で生きてきたからなのだろうが、好意を素直に受けとめない。 自分の想いを伝えるのに、どれだけ苦労したか。 そのくせ、一度懐に入れて信頼してしまえば、距離がひどく近くなる。 明らかにそれが、友情や尊敬を越えた"好意"であっても、鈍い彼は気付かない。 こちらは気が気でないというのに。 目の前で肩を抱き寄せられたり、耳元に囁かれていたり。 彼は自分の恋人なのだから、相手が負け惜しみや嫌がらせでやっていることもわかっているし、鼻で笑ってやれば済むことなのかもしれないが、そんな余裕も自信もないのが事実。 ただでさえ年下という負い目や、学年が違ってなかなか学校では一緒にいれないという焦りがあるのに。 なんだか腹の辺りが寒い。 意識が浮上して、初めに感じたのはその違和感。 続いて鼻をツンと刺激する臭いに眉をしかめた。 ただでさえ、人相がいいとは言えない顔を更に歪めて起き上がる。 「あ、起きた」 ひどく間抜けな声がして、目線を下げれば、床に男鹿が胡座をかいていた。 その手に握られた黒いマジックから、鼻をツンと刺激する臭いがして、更に顔をしかめる。 「なにしてんだ、男鹿」 「ん?持ち物に名前書いてた」 「小学生かよ…」 なんて鼻で笑いかけて、無性に風通しのよかった腹が気になった。 嫌な予感を胸に、勢いよくシャツの裾をめくり上げる。 「……ってっめぇ、男鹿ぁぁ!! まさかとは思ったが、なんてことしてんだ!!!」 確認した脇腹には、嫌な予感が最悪の形で的中していて、黒いマジックでデカデカと "俺の。男鹿辰巳" お世辞にもうまいとは言えない小学生の落書きのような字が綴られていた。 「なんだ、これ テメェ、殺されたいのかっ!?!?」 「持ち物には名前書いとけって、教わんなかったのかよ」 さも当然という顔で言われ、目眩がした。 なんだこいつ。 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、そこまでか。 「…つーか誰がテメェのだ! 死ね!!バカおが!!!」 いくら罵っても、まったく堪えていない上にもちろん反省もしていない男鹿に、叫んでいるこちらが馬鹿みたいだ。と渇く喉が訴える。 脇腹の落書きをシャツの裾で擦ってみるが、少しぼやけただけで消えそうにない。 「おい、男鹿。 寄越せ、それ」 男鹿の手に握られたマジックを素早く奪い取り、ベッドから飛び降りた勢いのまま、馬乗りになって押さえつける。 左手で顔を固定して、マジックを押し付けた。 「ぅお、なにすんだっ!!」 暴れるものだから、かなり歪んでしまったが、自分の文字に満足げに笑って、ついでにと脇腹にも文字を書く。 ようやく解放され、男鹿が鏡を覗き込むと、そこには斜めに"バーカ"の文字。 「おいっ! これ油性だから落ちねんだぞっ!?」 「そもそもお前が始めたんだろ。 つか、なんてもんで人に落書きしてくれてんだ、バカおが!!」 「他のやつに盗られないためだろ!!」 「わけわかんねぇよっ!!!」 そのまま掴み合いの喧嘩に発展した。 力任せに頬を引っ張られて、書かれた文字が歪む。 仕返しに神崎の頬を掴むと、予想以上に柔らかく伸びた。 「っはなひやがへっ」 「そっひがはなへ」 「…なにをやっている、ばかども」 冷たい声にそのまま二人して顔を向けると、いつの間にいたのか、窓辺にベル坊を抱いたヒルダが優雅にもたれ掛かっていて、冷ややかな視線を投げ掛けられる。 抱かれたベル坊は、なにやら嬉しそうだ。 一気に熱が覚め、お互いに頬を掴む手を放して座り込む。 無性に恥ずかしかった。 「俺、帰るわ…」 「お、おう」 珍しく、見送る気にもならなくて、片手をあげて送り出す。 ヒルダは既に興味もないのか、ベル坊の食事を取り出して準備に取りかかっていた。 独り、家に向かい歩きながら、先ほど落書きされた脇腹を擦る。 「ったく…しばらく人前で着替えらんねぇじゃねぇか」 呆れながらも、口元は綻んだ。 「うー、消えねぇ…」 風呂場で鏡に向かい、顔に書かれた落書きを消そうと奮闘する。 なかなか消えず、乱暴に擦ると少し赤くなった。 わかっているのか、男鹿が焦る姿を見上げ、ベル坊が楽しそうに笑い声をあげる。 「っ笑うな!! ………ん?なんだ、これ」 振り返りざま、一瞬過った鏡に映る背中に違和感を感じて、身体を捻って鏡に映しだしてみる。 小さくて黒い、汚れに見えたそれは、よくよく見れば顔と同じく書かれた落書きのようだ。 脇腹の背中よりにかかれている上に小さくて判読しにくいそれを、目を凝らして見て、男鹿はニヤリと独り笑う。 「ダブー!!」 飽きてきたのか声をあげるベル坊に、自慢気に脇腹を見せつけた。 「羨ましいだろ」 "オレの。はじめ" リクエスト:男神 マーキング的なもの。油性ペンで"俺の。男鹿辰巳"と書く。神崎も書きかえす >九夜猫さま やっぱり、うちの神崎くんは恥ずかしがり屋さんなので、こっそり書き返しましたw ガキっぽく…とのことでしたが、ご希望に添えてますでしょうか(汗 詳しく設定下さったのに、うまく昇華できてない気配だらけなんですが…←← 苦情はいつでも受付けます← ← |