姫川は、かなり恵まれた人間だ。

センスに若干の疑問はあるものの、元来持ち合わせた目鼻立ちは整っていて、成長するにつれ、身長に加え手足も長くしなやかに伸びた。
凡そ学力というものは、本人が拒否し続けたため身についてはいないが、策略にも長け、頭の回転は悪くない。

そして何より、愛しい恋人がいて、求められるものを好きに与えてやるだけの財力があった。



「なぁ、神崎。
誕生日プレゼント、なにがほしい?」

屋上のフェンスに背を預け、隣でストローをかじる神崎を見遣る。

「…お前、そのストロー噛むのやめろよ」
「ほっとけ、クソフランスパン」

全く可愛くない返事をする愛しい恋人に、思わずため息が漏れた。

「…で、何が欲しい?」

言いたい言葉は山ほどあったが、一言でも口にしようものなら、昼休みは罵り合いのうちに終わってしまう。
堪えて、先の質問を続けた。

神崎は暫し考えるように視線を彷徨わせ、やがて姫川を真っ直ぐに見つめ、その胸元を指差した。

「は?」
「それ。お前がつけてるやつ」

胸元のチェーンネックレスを指差していたらしい。
自分も気に入っていて、毎日つけているものだ。
自分の好きなものを相手も好きだと言ってくれたことが単純に嬉しい。
自然にやけると、気持ち悪いと一蹴された。











神崎の誕生日。
準備万端で前日の夜から、神崎を部屋に招き入れた。
日付が変わる瞬間に、最初に祝ってやりたい。
先にシャワーを浴びて、続けて神崎が入っている間にソファ前のテーブルにケーキとグラスを並べる。
ケーキはこの日のための特注品で、バッチリ神崎の好みに合わせてある。
グラスに注ぐのはワインではなくジュースだが、これも取り寄せた。



扉が開く音がして、振り返ると、神崎は部屋着姿に首からタオルを提げた状態で部屋に入ってくる。
水に濡れた色素の薄い髪が、額や首筋に張り付いて、滴がタオルに染み込んでいく。

「おい、髪乾かせっていつも言ってんだろ」

まだ扉の前にいる神崎まで歩み寄り、首から提がったタオルを掴んでがしがしと頭を拭う。
「わ、ちょ…いてぇっ」
身を捩って暴れるのを押さえ付け、粗方拭き終わってから、ソファに座らせた。
すぐにドライヤーを持ち出して、背凭れ越しに髪を乾かしてやる。
子供じゃねぇよ。とふてくされるが、気持ちいいのかすぐに大人しくなった。

「ガキじゃねぇなら、自分で乾かしてから出てこい」
「ほっときゃ渇く」
「風邪ひいたらどーすんだ、馬鹿」
「そんなヤワじゃねぇし」
「…っほら、終わったぞ」
「んー」

髪に思い入れがあり、男にしては長さもある姫川に比べ、神崎は無頓着だ。
熱を孕んでふわりと柔らかくなった髪に鼻先を潜らせる。
洗い立てのシャンプーの香りと頬に触れる髪の感触が心地いい。

「…終わったんだから離れろ」
「んー…はいはい」

名残惜し気に後頭部に軽く唇を寄せて、ゆっくりと離れた。
既に神崎の意識は目の前のケーキに移っているようで、苦笑を禁じ得ない。
時計に目を遣ると、間もなく日付も変わるところだった。

隣に腰かけ、グラスにジュースを注いで手渡す。
自身のグラスを傾けて乾杯を促すと、そっとグラスが合わされ、キンと小さな音が響いた。





「ハッピーバースデー、神崎」








グラスを一気に開け、早速ケーキへとフォークを伸ばす神崎に満足気に微笑み、姫川は小さな長方形の箱をそっとケーキの隣に置く。
黒い箱に、小さくブランドのロゴが入っている。

「開けろよ」

フォークを口に加えた、あまり行儀がいいとはいえない状態で、箱を開ける。
中には銀色に光るチェーンのネックレス。
姫川の胸元に光るものより、少しチェーンが大きい。

「お前には、そっちのが似合うと思ってな」
「……違う」
「…は?」
「欲しいっつったのは、これじゃねぇ」
軽く睨まれ、まぁ確かに言われたものと同じではないが。と箱に入ったままのネックレスを見遣る。
姫川としては、神崎の好みを考慮して、最良のものを選んだつもりだったのだが。

「同じブランドだし、ほぼ同じデザインじゃねぇか。
このくらい大振りな方がお前には似合うだろ」
「違う。これじゃねぇ」

そうしてこちらを見たかと思うと、首に手が回されて瞬間身構えた。
が、その手は首から提がるチェーンにかかり、どうやら姫川がつけているものを外そうとしているのだとわかる。
意図がよくわからず、ひとまず大人しくされるがままでいるが、うまくいかないのか段々焦れて力が加わり、ギリギリと首が締まった。

「ちょ、まっ……ぅ
いや、わかった。悪かった。
すぐ同じの取り寄せるからっ」

外させようと手首を掴んで訴えると、すぐ近くにある神崎の口元から舌打ちが聞こえ、少し力が緩む。

「俺はっ」
「お、おぅ…」


「っお前がつけてる"それ"が欲しいっつってんだよ!!」












「ぇ…ぁ、え?」

神崎の言葉の意味がすぐにわからず呆然と、自分から顔を背けて離れていく神崎を見つめた。


「えと…つまり、"俺がつけてる"やつが欲しかったわけ」

わかんねぇよ、それ!!
つか、なんだ、急にデレられても、こいつのタイミングわかんねぇ…

なんて、安堵したのと予想外の答えに、一気に顔が火照る。
神崎を見遣ると、こちらも紅いのがわかった。

「…もういいっ」









「かんざき」
「………」

名前を呼んでもこちらを振り向こうとしない神崎をそっと背後から抱き締めた。

「放せ、クソリーゼントッ!禿げろ!!」

暴れようとするので、少し力をこめる。
「悪かったって。ほら」





自分のを外して、神崎の首筋にそっとあてがう。

「うん。似合う似合う」
「………ん」


大人しくなった神崎の首にネックレスをまわし、器用に片手で金具を留める。
そうして首筋に鼻先を擦り寄せ、抱き締める腕に力を込めた。









「毎日、つけろよ」


「………気が向いたらな」





















姫ちゃんの身に付けてるものが欲しいはじめちゃん。
デレのタイミングが未だに掴めず、毎回姫川は不意討ち食らえばいいww

新しい方のネックレスは、姫川がつけるか、神崎がもらって日替わりでつければいいよ!
最初、夏目か城ちゃんにあげちゃうかも。って言ったら、相方に流石に姫川が可哀想と止められました←←




「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -