誕生日だって言ったら、ひどく驚かれた。 知らなかった。と。 そりゃそうだ。今日初めて伝えた。 「俺…バイト」 「そーだな」 露店を覗き込むと、焼きそばのいい香りが鼻を刺激する。 「…食うか?」 「ん」 隣に転がっていたコンクリートブロックに腰かけ、東条から渡された焼きそばを大人しく食べた。 屋台の味だ。 なんで屋台で食べるものって、無駄に美味しく感じるんだろう。なんてどうでもいいことを考えた。 その間にも、客はパラパラとやってきて、そんなに人が多いわけでもない、小規模な祭りなのに、売れていく数に驚く。 こんな図体の男が売っていたら、人は近付いてこなさそうなものなのに、流石バイトばかりしているだけあって、客へのアピールができているようだ。 客に愛想よく笑う東条を横目に見て、なんだか胸がモヤモヤした。 何故だかそこから離れたくて。 さっさと焼きそばを食べ終え、ゴミを押し付けて歩き出す。 「お、おい。はじめっ!!」 背中から慌てて呼ぶ声は無視して、自動販売機を探した。 一気に食べたせいで喉が渇く。 お茶と炭酸飲料しかなく、仕方なくお茶のボタンを押した。 戻るわけにはいかなくて、かといって帰る気にもなれず、近くに生えた大きな木に背中を預けて座り込む。 「俺、なにしにきたんだ…」 暫くぼうっと葉の間から覗く空を見上げて、何気なく視線を下げた先に、小さな露店があった。 ベーゴマやかるた。なんのキャラクターかもわからないお面など、ところ狭しとオモチャが並べられている。 なんだか面白くて、魅入ってしまった。 「…っはじめ!!」 露店を物色し始めて、すっかり意識が持っていかれていたところで、背後からかけられた声に、手にしていた人形を落としてしまった。 露店を出している、かなり年配に見える男は、特に咎めることはなかった。 振り返ると、エプロンをしたままの東条がこちらを見下ろしていた。 下から見上げると更にでかいなぁ、なんて思っていると、その視線をどう捉えたのか。 腕を掴んで引き上げられる。 「なに見てんだ?」 「いや、なんかすげー古いのとかあって、面白いぞ」 露店を指差すと、東条も神崎の肩越しに店先に視線を遣る。 「じーさん」 何か気になるものがあったのか、東条は大きな体でしゃがみこみ、男に声をかけた。 「これ、いくらだ?」 摘まんでいるものは、東条の指にすっぽりと隠れてしまって神崎からは見えない。 「300円」 男は見た目通り、愛想のない声で答える。 ポケットから直接掴み出した小銭を男に差し出し、東条はそのなんだかわからない物を握り締めた。 とりあえず、どこかに座ろう。と手首を掴んだまま、ぐんぐん進む。 なんだか手を繋いでいるみたいで恥ずかしく、振り払おうとしたが、びくともしなかった。 ようやく東条が足を止め、目の前の石階段に座るよう促される。 東条より2段上に座るのが定位置だ。 「お前、バイトは?」 ペットボトルのお茶を一口飲んで、2段下にいるはずなのに、あまり変わらない高さにある目を見る。 「あぁ。庄次に任せてきた」 「ふーん」 「なんで急にいなくなったんだ」 「……バイト見てたって暇だろうが」 「まぁ…そうだな。悪い」 実際のところ、東条に非がないのはわかっているので、謝られると居心地が悪い。 言うべき言葉が見つからず、黙ってしまった。 「誕生日も。 知らなくて、悪かった。 俺は、金ないから、いいもんとか買ってやれねぇけど」 そうして、大きな拳を神崎に突き出す。 そっと開かれた大きな掌に、とても似つかわしくない、小さな指輪が出てきた。 目で促されて摘まみ上げると、不思議なほど軽い。中央の台座には真っ赤なプラスチックが埋め込まれている。 「これ…」 「そんなもんしか買ってやれない」 「ばーか」 東条の額に拳骨を当てる。 オモチャの指輪はポケットにしまった。 「こんなちっさいの、入んねぇだろーが」 「…ぁ、悪ぃ」 「けど、勿体ないから貰ってやる」 「お、おぅ。 俺、はじめのこと、一生大事にするからな」 誕生日プレゼントなんだか、婚約指輪なんだかわからなくなっている宣言に呆れながら。 ポケットの中、指先で指輪を転がした。 先ほどまで握り締められていたそれは、ほんのり温かかった。 オモチャの指輪とか貰ったら可愛いな。っていう、ただそれだけです← くだらねぇとかいいながら、すっごく大事にしてる神崎とか萌えますw ← |