初恋




「初恋って、どんなだった?」








「……は?」


思ってもみなかった質問を投げ掛けられ、古市は、幼馴染みの横顔をまじまじと見つめた。
恋愛事には全くといっていいほど、興味を示さなかったのに、どういう風の吹き回しだろう。

頭でも打ったか…。

まさか、恋をした。という普通であれば最初に思い付くであろう理由は欠片も思わなかった。

「いや…なんか、気になった」
「ふーん」

なんでもない風を装っているのだろうが、その横顔は耳と言わず、首まで真っ赤で。
欠片も思わなかった理由が正解なのだと気付く。

しかし、確かにその手の話をしたことはなかったが、まさか高校生にして初恋がまだだったとは。

「あんま、覚えてないけど…」
「そっか」
「うーん…まぁよく、初恋は実らないって言うよな。
だから甘酸っぱいとか、淡いとか?」
「ふーん…俺、実っちまったしなぁ…やっぱわかんねぇな」
「そーかそーか
………って、男鹿ぁぁあ!!!」

突然あげられた奇声に、背中のベル坊が目を覚ます。

「おいおい、古市。
ベル坊が泣いたらどうすんだよ」
「すおんなことはどうでもいいっ!!
なんだ、実るとか実らないとか!?
いつの間にそんな相手ができたんだぁっっ!?!!??」

そういや、言ってなかった。と頬をかく男鹿の胸ぐらを思い切り揺する古市の顔は必死だ。
まさか、高校に入って、男鹿に先を越されるとは思ってもいなかった。

「だ、誰なんだよ!?
俺も知ってるこかっ??
まさか、ヒルダさんとか言わないよなぁっ!?」
「いや、そりゃねぇだろ…
お前も知ってるやつだけど」
「じゃあ、誰だよ!!
…っは!まさかクイーンじゃつ?!」

ないない。と顔の前で手を振ってみせる男鹿に、ベル坊も合わせて首を振る。

「じゃ、じゃあ、クラスメイトとか!
1年かっ!?」
「いや、3年」
「年上かぁぁあっっ!!
お姉さまとか、なんて羨ましいーっっ!!」

なんだかやけにテンションの高くなってきた古市が面倒で、男鹿は無視して学校へと向かった。

今日は金曜日。
初めての、お泊まりデートなるものが待っていた。
そう思うと自然、足取りは軽くなる。
古市はそれから教室に入るまで、一人で騒ぎ続けていた。












「…………」
「…………」
「…………おい、男鹿」

とうとう視線に耐えられなくなり、神崎は歯磨きを中断して、男鹿を振り向いた。
男鹿はというと、自分が見つめていたくせに、目が合ったことにひどく驚いて、一歩後ずさる。

「そんな見られると、気になるんだけど…」
「おぅ、悪ぃ…」
「つかお前も早く磨けよー」
「…おぅ」

神崎に習って、歯みがき粉を載せた歯ブラシを口に含む。
口いっぱいに、なんとも言えない苺の味が拡がった。

「ぅげ…なんだ、これ」
「歯みがき粉」
「甘ぇよ…お子さま用だろ、これ」
ラベルを確認しながら振り向くと、思い切り睨まれた。

「ミントとか、苦くて無理。
あんなんで磨くやつの気がしれねぇ」

恐ろしく、発言と顔が合っていないが、そんなことを言おうものなら、すぐさま蹴り出されてしまうことは目に見えて、流石の男鹿も空気を読んで黙ることにした。
今ここで、神崎の罵声と共に追い出されたら、男鹿と言えども無事に帰れる保証はない。

場所は神崎邸。
母屋からかなり距離をおいた位置に作られた離れにいた。
初めて訪れた家は、今まで自分が生きてきた環境とはかけ離れていて、門構えや庭の広さに言葉を失う。
堅気ではないし、姫川とまではいかないが、かなりいい家の出であることを思い知らされる。

家の者には会わない方がいい。という神崎の言葉に素直に頷いて、門を潜るや一直線にこの離れへとやって来た。
どうやら、元は知りようもないが、現在は神崎専用となっているらしい離れは、一見和風の立派な外観だが、中には漫画やゲームが並ぶ棚やコンポ、やや小ぶりの冷蔵庫などが備えてある。
興味本意で開けた冷蔵庫には、案の定、例の紙パックが詰まっていて、大変ほほえましかった。

「早くしないと眠くなるだろーが」

先に歯磨きを終えた神崎は、テレビを操作しながら、布団に潜り込んだ。
「今いく」

二人で借りた映画のDVDを見るために来たのだが、一緒に銭湯に行って、帰ってからははしゃいで部屋を探索していれば、かなりいい時間になっていた。
さっさと口を濯いで、神崎の隣に潜り込む。
密着しても怒鳴られないのが、なんだかくすぐったかった。

「始めるぞ」











映画はまさかラブストーリーなわけもなく、話題になっているSF系の新作だ。
ときめくようなシーンも全くないのだが、触れ合う肩が気になって、心臓は激しさを増すばかりで、まったく映画には集中できていない。
神崎は真剣に画面に魅入っていて、男鹿が画面でなく自分の横顔ばかり見ていることには気付いていない様子だ。
途中まで、わけがわからないながらも一緒に見ていたベル坊は、少し離れたところに専用の寝床を作ってもらい、すやすやと眠っている。


真っ暗な部屋の中で、画面の明かりで浮かび上がる横顔は、昼間見るより更に白く映る。
薄く開かれた、ピアスのない唇に触れたいと思った。


「………かんざき」
「んー?」
「こっち向いて」
「あ゛?なんで…」

不機嫌そうに眉根を寄せながらも、自分に向けられた顔を引き寄せて、そっと唇を重ねた。




「……っ」

どうやら驚いているらしい神崎の唇を舌で軽く辿って、そっと瞳を覗き混む。











「……甘い」






真っ赤な顔をした神崎に、思い切り殴られたけれど、男鹿の顔は弛んだままだった。






















おまけ

「甘酸っぱいってか、甘かった…」

「なにしたんだよ、男鹿ぁぁあ!!!
てかいい加減、相手教えろっ!!」







神崎くんのチュウは、ヨーグルッチか苺味にちがいない!!というakitsuの残念な妄想からできあがりました。
初チュウネタにしたかったんだけど、伝心でチュウしたの忘れてたので撃沈orz
テーマ曖昧で申し訳ないですが、勿体ない精神でうp←

最近、個人的妄想が暴走して、男神が熱いです!!




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