伝心 付き合いはじめて早1ヶ月。 男鹿が、 なにもしてこない。 いや、別にして欲しいとかそういうわけじゃないけれど。 だからって、それなりにいい年だし。つーか、青春真っ盛りだし。 そんな年で付き合って、なんもないって…流石にどうよ。 あっちから好きだって言ってきたくせに、やっぱりそういう好きじゃありませんでした。とか、まさかそんなオチじゃないだろうな。 考え出したら止まらなくなって。 ぐだぐだ考えて頭使うのも、自分には向いてないし、気付けばあいつにメールして、そのまま携帯と財布だけ引っ付かんで、家を飛び出した。 夜の公園は、当然ながら誰もいやしない。 急に呼び出したから、すぐにはこないだろうと、ブランコに一人腰かける。 もしかしたら来ないかもしれない。 もう寝ていて、メールを読んでいなければもとより。 何故だか四六時中に離れられないとかいう赤ん坊が眠っていても、やはり無理なんじゃなかろうか。 今さらそんなことを思って、少し後悔したが、どうせ自室に籠っていたって、ぐだぐだ考えるだけだ。 日中の暑さが嘘のように、風はひんやりとして心地いい。 やけに澄んだ星空を見上げながら、ゆらりとブランコを漕ぎ続けた。 暫くして静かな公園に、地面を蹴る音が小さく響いた。 だんだんと近付くそれに、ゆっくりと視線を向けると、息を弾ませて駆けてくる、男鹿が暗闇の中、微かに見える。 「…よぅ、男鹿」 目の前の男鹿を見上げて声をかけると、苦しそうに、片手だけがあげられた。 挨拶なのか、ちょっと待て。とでも言いたいのか、判断しかねる。 暫く肩で呼吸を繰り返したあと、ゆっくりと顔を上げて、笑いかけられた。 頬が紅いのは、ここまで走ってきたからだろう。 自分のために、こんな時間に走ってきてくれたかと思うと、少し歯痒かった。 「か、神崎。 どうしたんだ、こんな時間に」 「んー、いや……なんだったかな」 不思議そうに眉根を寄せながら、男鹿も隣のブランコに腰かける。 背中に、眠る赤ん坊が括りつけられていた。 なんだか、悩んでいたことはどうでもいいような気もしてきたし、よくよく考えてみると、それを言い出すのはかなり恥ずかしいことな気がして。 男鹿が重ねてきいてこないのをいいことに、無言でブランコを漕ぎ続けた。 「…俺、」 言葉もないまま、十数分が経ったところで、止まったままのブランコなら男鹿が立ち上がる。 「そろそろ帰るわ」 「…………」 当然と言えば当然だ。 足先を軽く地面につけて、揺れるブランコを止める。 男鹿を引き留める理由も思い付かず、曖昧に頷いた。 なに、やってんだ、俺。 「なぁ、神崎」 「ん?」 そのまま帰るかと思われた男鹿がゆっくりと振り返る。 公園の心許ない外灯と月明かりに照らされて、暗闇の中、ぼんやりと男鹿の笑顔が浮かんだ。 「好きだぜ」 「…ぇ」 「こんな夜中に呼び出されて、すっげ嬉しくて、全力で走ってくるくらい、神崎が好き」 「…お前にとっては、単なる気紛れかもしんないけど」 「………」 うっすらと目に映る笑顔がとても寂しそうで、違う。と伝えたいのに、喉が渇いて声が出ない。 「だから、」 「…これ以上、こんなとこに二人でいたら、我慢できなくなる」 だから帰る。 「…―っ男鹿!!」 張り付く喉からやっと絞り出した声は掠れて、少し裏返る。 背を向けた男鹿を捕まえようと、勢いよく立ち上がったせいで、バランスを崩してしまった。 情けなくも膝をついてしまった神崎に、苦笑しながら手が差し伸べられる。 「…おいおい。なにしてんだよ」 その手を取って、力の限り引き寄せた。 「…は?ぅわ、ちょっ…!?」 倒れ込んでくる男鹿を抱き留め、すぐ目の前の唇に、噛みついた。 目の前いっぱいに、男鹿の見開かれた瞳が映って、なぜだか、いい気味だと思う。 ゆっくりと離れると、口をパクパクと無意味に蠢かす姿が見えて、思わず声を出して笑った。 「ぇと…かん、ざき…さん?」 「ばっかじゃねぇの」 「なにが"我慢できなくなる"だよ。 誰が、いつ、我慢しろなんて言った?」 睨み付けてやると、珍しく男鹿が狼狽する。 その姿は、いつもと違って年相応に見えて、可愛らしかった。 「ぁ…だって――」 「ん?」 「俺…、俺は、神崎のこと、好き、だけど」 「知ってる」 「神崎、は…どう思ってるか、わかんなかったし」 「俺たち、付き合ってんじゃねーの?」 「そ、そうだけどっ!! 神崎の気持ち、きいたこと、なかったし。 仕方なく…付き合ってくれてんじゃねえかなって、思うことも…あったり、」 「なんで俺が、仕方なしで男と付き合わなきゃなんねーんだ」 「ぅ…でも…」 「……言葉にしなきゃわかんねぇのかよ」 かなり動揺しているのか、落ち着きなく彷徨う手を、手を伸ばして捉える。 「好きだ」 握り締めた拳から、男鹿の震えが伝わってきた。 自分は平気な顔して、好きだとか言うくせに。なにそんな緊張してんだよ。 「…まだ言わせんの?」 「…――っ神崎!!」 腕を引き寄せたられ、気付けば腕ごと体を抱き込まれていた。 合わさった胸板から、やけに熱い体温と、激しい脈が伝わってくる。 「好き。好きだ」 「知ってるっつーの」 「うん。 …もっかい、キスしていいか?」 「だから …言わなくてもわかれよ」 純粋な男鹿と、大人な神崎くんが書きたかった。 でも一回許されたら、男鹿は求めまくりそう… 若いですしねwww ← |