ふたりで子育てしませんか 特にすることもなくて、目的もなく歩いていたら、知らずいつもの公園に着いていた。 太陽も真上に上り、日射しが痛くなってきたのもあって、ちょうどいい。 ベンチで休憩でもしようと、公園に足を踏み入れた。 道すがらコンビニで買った紙パックにストローを刺し一口啜ると、心地いい冷たさが喉を通り抜ける。 口いっぱいに拡がる甘さと、喉を潤す冷たさを求めて一気に啜ると、すぐに紙パックはひしゃげてしまった。 「ぁ」 「…あ゛?」 新しいパックを取り出してストローを刺したところで、小さくあがった声に、聞き覚えがあるように感じて顔を上げる。 つい癖で睨むように視線を遣ってしまうが、相手は全く怯む様子はなかった。 それもそうだ。 3メートルほど離れたところでこちらを凝視する男は、嫌なほど見覚えがある。 緑の髪をした赤ん坊を背中に貼り付けた男など、そうはいないだろう。 「よう。なにしてんだ?」 正直、関わりたくもないのに、くそ生意気なその男、男鹿はこちらに近付いてきた。 視線を逸らせたら負けな気がして、仕方なく見返す。 「なんだっていいだろうが」 「暇なのか」 「喧嘩売ってんのか?!」 「暇なんだな」 「おい!!」 勝手に決めつけて(まぁ実際、その通りなのだが)、男鹿はあろうことか、隣に腰かけた。 意味わかんねぇ…。 今すぐ離れたいのが本音だが、やはりここで自分が立ち去るのは、やっぱりなにか負けな気がして動けない。 男鹿は隣に座って、何をするでもなく、赤ん坊を膝に乗せて空を見上げている。 なんだか拍子抜けして、自分もストローをくわえて、見るとはなしに空を見上げた。 見事に空は晴れ渡っていて、雲ひとつない。 「ダブー」 突然、男鹿に抱えられた赤ん坊が可愛らしい声をあげるものだから、不覚にも少し驚いた。 見ると、こちらに小さな手を懸命に差しのばしている。 「ん?なんだ?」 返せば嬉しそうに声を張り上げて、更にこちらへ手を伸ばす。 どうやら、自分の手の紙パックに向けられている気がして、「欲しいのか」と問えば、満面の笑顔で頷かれた。 「しょうがねぇなぁ」 自分でも意外に思うが、自分は比較的子供に甘いようだ。 新しいものをやろうと、コンビニ袋に手を入れていると、いつの間にやら、赤ん坊はこちらの膝まで乗り上げてきていた。 膝にあたる手や足の感触がひどく柔らかい。 ストローを刺して手渡してやると、両手で握りしめた。 危ういバランスで飲みはじめるものだから、片腕で抱き、膝にきちんと座らせてやる。 上機嫌で飲み出す赤ん坊に、知らず笑みが洩れる。 「お前、子供好きなのか」 男鹿が、さも意外だといった風にこちらを見る。 「さぁな」 自分でもよくわからないので、そう応えた。 別段、好きだというわけでもないが、嫌いでもない。 が、懐かれて悪い気がしないのも事実だ。 「なぁ、神崎」 「"さん"をつけろ」 睨み付けると、はにかむ男鹿と目が合った。 なぜ、はにかむ!? 気持ち悪いことこの上ない。 「ベル坊も懐いてるみたいだし」 「ベル坊…?」 どうやら、膝に乗るこの赤ん坊の名前らしい。 「……一緒に子育てしませんか!?」 「…………はぁ?!」 まったく意味がわからない。 脈絡だとか、そんなもの、この男には関係ないのだろうか。 「いや、意味わかんねぇし。 第一、なんで俺が……」 膝上の赤ん坊が、不思議そうにこちらを見上げてくるので、髪をくしゃりと撫でてやる。 上機嫌でまたストローをくわえだした。 「嫁に世話させろよ」 よく学校には現れているようなのに、今日はいない金髪の美人を思い出す。 「いや、あいつ嫁じゃねぇし」 じゃあ、なんなんだ。と訊ねる前に、相手がとんでもないことを言い出した。 「お前がいいんだけど」 「………は?」 「嫁にするなら、神崎がいい」 あまりのことに言葉が出てこない。 意味がわからん。 というか、こいつは一体何を考えてるんだ。 もうそれ以前に存在が異常だ。 脳より先に体が危険を察知して、気付けば膝上の赤ん坊を男鹿に押し退けて立ち上がっていた。 「なんで逃げるんだ」 いや、逃げるだろ。 当然の反応だ。 「…………」 なのに、なんでそんな傷付いたような顔をされなくちゃならないんだ。 男鹿に連動するかのように、抱えられた赤ん坊まで、悲しい表情を浮かべていた。 謂れのない罪悪感が沸々と湧いてきて、立ち上がったものの、足が動かない。 ガキを使うなんて卑怯だ。 「…お、男鹿?」 「結婚はさすがに早かったか…。 んじゃ、結婚を前提にお付き合いから始めましょう!!」 変な効果音が聞こえそうなくらい力強く、宣言された。 「いや…ほんと、なんなのお前」 怒りや驚きより先に、呆れてしまう。 口元をひきつらせる神崎に気付かず、男鹿は赤ん坊と頷き合っている。 「そういうわけで、よろしく」 と、爽やかに手を出されても…。 はい、そうですか。と握り返せるわけもない。 一歩後退ると、大きく一歩詰められる。 更に一歩下がると、更に大きく一歩詰められた。 逆に距離が縮まっている。 「いやいやいや。 それ以上、寄るな!!」 「なんだ、なにが不満なんだ」 「不満だらけだっっ!!! つーか、まじで意味がわからん」 「照れてんのか」 「ちげーよっ!! まじ頼むから死んでくれ」 日本語が通じない相手にはどう接したらいいんだ。 やっぱり学校なんか行っててもなんの勉強にもなりゃしない。 「とりあえず、今からデートしよおぜ」 輝かんばかりの笑顔を向ける男鹿からは、到底逃げきれそうになかった。 なぜこうなった…orz あれ?初めは歯痒い感じの甘い男神の予定だったのに…うまくいかなかった← 男鹿ちゃんは、とっても純粋なこだと思うのです。 んでもってポジティヴすぎて、なんでもいいように解釈しちゃう。 悪気がないのが怖いとこかと。 でもそれになんだかんだで神崎は流されちゃうんだろうな。 ストレートにぶつけられる想いにほだされたり、笑顔に弱かったりするといい!!! こんなんばっかですみません←←← ← |