The promise is 一生、君だけを愛してる これは、君に誓う約束 卒業式も無事終わった。 碌でもない輩ばかりだったけれど、意外と石矢魔の生徒は根が純粋だ。 半数以上が涙を流すという、感動の式だったと言ってもいい。 勿論、隣に立つ彼は泣いてやしなかったけど、泣くまいと我慢しているのは、震える拳でわかった。 彼は結局、大学に進むことにしたそうだ。 試験前、勉強をみてやって、こんな試験で入れる大学もあるのだと驚いた。 まぁ実際のところ試験は形ばかりで、違うところで入学の斡旋が行われているのは明白だけれど。 勉強をみるという名目で、暫く彼を独り占めできるので、敢えて知らないふりをした。 結局、彼から離れてみたり、他に目を向けようとしたところで、自分の気持ちは変わりようがないと何度も思い知らされ、それならばと、残り僅かな時間は彼の側にいることを選んだ。 それも今日まで。 自分は彼よりは、少しまともな大学への進学が決まっている。 城山は本気で勉強して、正々堂々、彼と同じ大学への入学権を獲得していた。 俺は敢えてそうはしなかった。 新しい居場所でまた彼は登り詰め、そしてまた新しい"仲間"を侍らすのだろう。 その隣に城山はいても自分はいない。 それでいい。と思うし、そうあるべきだとも思う。 だから今日は、彼の"仲間"として過ごす最後の日。 誰もいなくなった、3-Aの教室で、机に突っ伏する彼を見つけた。 「泣いてるの?」 背後から声をかけると、弾かれたように彼が振り返る。 予想に反して、いつも通りの表情だった。 「残念。 珍しい顔が見れると思ったのに」 「…誰が泣くかよ」 そうして、片眉を持ち上げる表情が好きだった。 微かに引き上げられた口角で、ピアスのチェーンが揺れる度、目を奪われた。 いつもは紙パックを弄る手が、今日は卒業証書の入った筒を持っていて、少し手に余るそれを、片手で弄ぶ仕草が愛しいと思う。 「ねぇ、神崎くん」 「……っ」 徐ろに名前を呼ぶと、肩に微かに力が入れられたのがわかった。 鈍い彼も、ここ数ヶ月の間に流石に察してくれたらしい。 俺がこれから言うであろう言葉を予想できているのだろうか。不安気に揺れる瞳と視線が絡まる。 「好きだよ」 「………」 「ちゃんと言っておきたくてさ」 「…なつ、」 「あ、答えはいらないから。 聞きたくないし」 泣かないと言った彼の瞳を揺らしているのは自分だ。 ごめんね。傷付けたいわけじゃないんだけれど。 いや、やっぱり、傷付けたいのかな。 彼の中に、自分を刻み込んでしまいたい。 「でもね」 「俺の気持ちだけ、覚えてて。 ずっと、好きだったよ。 これからも…ずっと好き。約束する」 「……約束って、なんだよ」 彼が小さく笑う。 俺を笑ってるのか、自身に向けられた自嘲なのかはわからない。 その仕草でまた、口元のピアスが揺れる。視線を奪われた。 「神崎くんに誓って、 一生、神崎くんが好きだよ」 「…わけわかんねぇ」 「うん」 彼にどう映ったかはわからないけれど、いつものように笑ってみせた。 小指を立てて、彼の小指を絡めとる。 「やくそく、だよ」 一生、君だけを愛してる。 約束するよ。 あと少し。お付き合い下さい。 ← |