DOZE




親に急な呼び出しを受けて早5時間。
日付は既に変わっていた。
不満顔で自分を送りだした神崎は、もう帰ってしまっただろうか。

扉をあけると、感知して廊下に灯りが点る。
玄関にまだ、彼のスニーカーがあることを確認し、急ぎ足で部屋へと向かった。
リビングの灯りは点いたまま。扉の向こうから、テレビの音が漏れ聞こえる。
そっとドアノブを引いて中を覗きこむと、ソファからはみ出す黄色い髪が見えた。

そっとソファに忍び寄り、床に膝をつく。
規則正しい呼吸を繰り返す姿に、知らず笑みが零れた。
ふわふわと、寝息に合わせて微かに揺れる髪に指を潜らせ、頭を優しく撫でながら、愛しい恋人の名前を呼んだ。

「神崎、起きろ。
こんなとこで寝たら、体痛めるぞ」

軽く揺すってみるが、小さな呻き声をあげるだけで、起きる気配がない。

「かんざきー。
おーい、はじめちゃーん」

「………ぅ、ん…」

「起きねぇとイタズラしちまうぞ」

そうして唇を寄せ、あと数センチというところで、目の前の瞳が開かれた。

"殴られるっ!"と咄嗟に身構えるが、一向に衝撃はなく、そろりと顔を上げると、まだ寝惚け眼の神崎が、ゆるりと手をこちらに差し出してくる。

「……お、おはよう?」
「…ん、ひめか…おかえ、り」

伸ばされた掌を素直に取れば、きゅ、と握りこまれた。
体温がやけに高いのは、寝起きだからか、自分が外から帰ったばかりだからか。
常にない神崎の様子に戸惑いながら、握られた手を更に片方の手で包み込んでやる。

「どうした、神崎」
「ん…眠ぃ…」

答えると同時に手の力が抜け、また眠りにつこうとする。

「おいおい、ここで寝るなって。
ベッドまでがんばれ」

言いながら背中に腕を差し込んで、半ば強引に上体を起こす。
立ち上がるよう促そうと、軽く背中を擦ると、思いがけず伸びてきた腕に首を抱き込まれた。

「ぃて…、おい、神崎?」

「ひめかわ、

      ……抱っこ」





………………





………………





………―――っ!?!!?


「か、かんざき?」

それはあれですか、お姫様抱っこで運ぶっていう、そういう意味で合ってますか、え、なに、なんでこうなった
ドッキリでした!とか、そんなオチじゃないだろうな!?
思わずカメラを探してしまう。

暫く固まって動けずにいると、首にかかる腕に力が込められた。
神崎が不満そうに眉根を寄せて、こちらを見上げている。
「――っ」
いやいやいや、上目遣いで膨れるとかやめろ。
くるから、色々と。
……主に下半身に。



「運んでくんねーの?」

……運ぶに決まってんだろーが!!!

もうドッキリだろうがなんでもいい。
膝裏にも腕を差し入れて、自分よりいくらか小さいだけの体を持ち上げた。
ヨーグルッチばっか飲んでるからじゃねーの。と、いつか身長差を気にする神崎を笑ってやったことを思い出す。
持ち上げる瞬間、神崎の髪からふわりと、自分のシャンプーの香りがした。



そのまま器用に腕や脚を使って扉を開け、寝室に辿り着く。
ベッドにゆっくりと体を下ろしてやったが、腕は首に廻されたまま離れない。


「神崎、ベッドついたぞ」
「ん。」

そっと腕を持って外させるが、替わりに手首を掴まれ、抱き枕よろしく、抱き抱えられた。

「ぅわ、おい…って
痛いいたいイタイ」

「…ひめかわ…寝よ」



………いや、寝たいよ、俺だって。
色んな意味で。

「ちょ、神崎、待てって。
とりあえず着替えるから」
「むり」
「すぐだから」

しかし、抱き締める腕に更に力が篭って、一層抜け出せなくなる。

普段の神崎ならば、まずありえない状況に、未だ戸惑いはあるものの、嬉しくないわけがない。
本気で振り払おうと思えばできないことはないが、それはやはり躊躇われた。


「…はじめ」
「…??」

「じゃあさ、おやすみのチュウ、
してくれたら寝るわ。

……なぁんて」

「ん…チュウ、する」




「……――っ!?!!??」






そうして、目を閉じたまま、唇を小さく突きだす神崎の姿に、毛ほどしかない理性が抗えるわけもなく。

スーツが皺になるのも気にせず、微睡む恋人に覆い被さった。










たまには甘える神崎を。
素面では無理でした←←
姫川さんは翌朝、おはようのチュウをしようとして殴られると思いますww




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