how can I forget u 君の温もりを忘れたくて 別の誰かを抱いてみても 君との違いばかりを探して 君じゃないことに絶望する 「俺、彼女ができたんだ」 だから暫くは、ここにも顔を出さなくなる。と宣言した。 半分は真実、半分が嘘。 彼の顔なんて見れるわけない。 彼は別段気にした風もなく、そうか。とだけ言った。 その奥の瞳が揺れて見えたのは、俺の願望だろうか。 あの日から 俺たちは何も変わらなくて そして 何かが決定的に以前とは違っていた。 俺はなにもなかった風を装い、彼もそれに付き合ってくれている。 ただ、忘れたいだけなのかもしれないけれど。 「夏目くん」 待ち合わせ場所に行くと、すでに彼女はそこにいた。 ストレートヘアの少女。 少し短かすぎるスカートから覗く脚が健康的な色気を振り撒いている。 道端で突然声をかけられ、その日のうちに付き合うことになった。 石矢魔にはいないタイプの、だからといって、大人しいわけでもない、極々今時の可愛らしい女の子だ。 「今日はどこ行こっか?」 こちらに駆け寄り、腕に絡み付いてくる。 柔らかな感触が二の腕にあたるのは偶然ではなく、意図を持ってやっているのだろう。 いつもより緩められた胸元のリボンから白い肌が覗いている。 「んー…なにしたいの?」 横目で微笑んでやれば、彼女は恥ずかしそうに笑った。 「…ぁん…」 彼ではない、鼻にかかった甘い声。 彼とは違う、柔らかい肌に曲線を描くライン。 女の子は可愛いし、綺麗だ。 柔らかくてか弱い。 それが、逆に自身を追い詰めた。 意識的に彼とは重なりようもない姿を求めておきながら、結局彼と違うことに吐き気がする。 肉体の欲は吐き出せても、欲望が充たされることはなかった。 「夏目くん」 「…なに」 情事後の倦怠感と嫌悪感に身を委ねていると、乱れた髪を直しながら、彼女が顔を覗き込んできた。 細い指が、頬をなぞる。 ふふ。と微笑む口元が近付いてきて、唇に温かい息がかかる。 「きゃっ…」 気付けば、彼女を押し退けていた。 信じられないと、大きな瞳が責める。 「ごめん、無理」 自分でも驚くほど冷たい声がでた。 彼女は怒りと羞恥で白い肌を真っ赤に染めて、俺を睨んだ。 飛び出したくても、飛び出せる格好じゃないからだろう。 代わりに俺が、すぐに服を整えて、申し訳ないから一発だけ、素直に平手打ちを受けて、ホテルを後にした。 適当に笑って誤魔化すこともできたはずなのに。 夕日を眺めながら、先刻の自分を思い出す。 自分らしくない。と微かに痛む頬を擦って自嘲した。 「夏目…」 「……―――っ」 思いがけずかけられた声に、ゆっくりと振り返る。 コンビニの袋を片手にぶら下げた彼がそこにいた。 頬に走る、特徴的な傷の辺りを指差して笑う。 「どうしたんだ、それ」 「うん。フラれた」 「…そうかよ」 「うん…」 君のせいだよ。 小さく、彼には聞こえないように嘯く。 「夏目、……」 彼は何か言いかけて、瞳を彷徨わせる。 なぜか鼓動が早くなった。 結局、彼は言葉にならない音を発しただけで、何も言わなかった。 代わりに、袋に手を突っ込んで、紙パックを一つ取り出した。 例の乳酸菌飲料だ。 「…やる」 そう言って、こちらに無造作に投げる。 慌てて手を出して受け止めた。 まだ買ったばかりなのだろうそれは、表面に水滴がついていた。 「…いいの?」 「ん」 そうして、彼は俺に背を向けて歩き出した。 引き留めることも、追いかけることもできず、ただ小さくなる後ろ姿を見送る。 やがて角を曲がって見えなくなった。 表面に滴のついた紙パックを頬に当てる。 ひんやりとして心地いい。 いつか、彼以外を愛せる日がくるのだろうか。 しばらくは、やっぱり無理そうだと、自嘲して、少し温くなった紙パックに口付けた。 君の顔、声、仕草 なにがいいかなんて忘れた ただ、"君が"いいんだ title:"どうしてこの愛しさは消えてくれないのだろう" by確かに恋だった ← |