how could I get u





君はなにもわかってない

俺の心がどこに向いていて

その瞳に
どれほど乱されるのか













「…よう」


滅多に鳴らない呼鈴が、しかもこんな夜更けに鳴るので、そっと覗き穴から伺うと、ストローを加える口元が見えた。
慌てて扉を開ける。
コンビニの袋を片手に下げ、伐が悪そうに笑う彼がいた。








時刻は、日付が替わってまだ少し。
追い返すこともできず、彼を招き入れた。



「…で。どうしたの」

ほぼホットミルクに近いカフェオレを差し出す。一緒にスティックタイプの砂糖を手渡すと、彼は躊躇なく注ぎ込んだ。
ほんと、顔に似合わない。

「……別に」
「何もないのに、こんな時間に俺のとこ来たの?」
「っ…、
来ちゃ、いけねぇのかよ」
「そんなことは言ってないよ」

本当のところは自分でもわからない。
彼に会えて嬉しいという正直な気持ちと、会っても苦しくなるだけだという思い。

彼は勝手にリモコンを操作してテレビをつける。
大して面白くもない深夜番組の、作り物の笑い声が部屋に響いた。
俺もそれに付き合うことにして、見るとはなしに画面を眺め、自分のカップに口をつける。
珈琲独特の苦味が広がった。














「…喧嘩した」





番組も終わりに差し掛かった頃、突然彼が口を開いた。
彼は画面を見つめたまま微動だにしないから、独り言かとも思い、真意を測りかねて、視線を彼の横顔に向ける。

「あいつと喧嘩した」

やはり視線は画面に向けたままで、また呟く。

「…そうなの」

どういうつもりなのかは全くわからないが、求められる言葉をかけることはきっとできない。と、ただそれだけを返した。

「ん」

彼もまた、続きを話すでもなく、小さく頷いただけだった。

きっと喧嘩をして、寂しくなってやってきたのだろう。
俺の気持ちなど知りもしないで。
それで彼を責めるつもりはないけれど、どうしたって心は乱された。

「おかわり、いる?」
「…ん。さんきゅ」

差し出されたカップを受け取り、流しへと退散する。
わざとゆっくりと珈琲を入れた。
今度は初めから、砂糖は入れておいた。



「はい」

温かいカップを、そっと手渡す。
落とさないようにか、カップを包み込むように両手が伸ばされた。
「……っ」
指先が触れた箇所が熱い。
咄嗟に手を放したせいで、カップが床に落ちた。

「おいっ」
運良く熱湯を浴びずに済んだ彼の、カップに伸ばされた手を
気付けばまた、握り締めていた。



「夏目…?」

訝しむというより、不安げな声で名前を呼ばれ、焦点がゆっくりと彼の顔に合わされる。
揺れる瞳に、吸い寄せられる。

「…おぃ、」















初めて触れた彼の唇は、


「ごめん、神崎くん」
「なつ、…」


ひどく甘ったるくて


「かんざきくん、
好きだよ。ごめんね」


ひどく苦かった。















何度触れてみても

彼は他の誰かのものだという事実は消えず

満たされることはなかった


















title:"不意うちキスじゃ奪えない"
by確かに恋だった







第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -