where my loves are supposed to be 君の手は どうしてこんなに温かいんだろう 温かくて愛しくて 放したくなくなってしまう どんなに求めてたって 手に入りはしないのに 今日は朝から天気が悪くて、春だというのにひどく肌寒い。 外に出るのが億劫で、放課後になってもまだ、教室から出られずにいた。 最近は、3人で帰ることも必然的に少なくなった。 それを寂しいと感じながら、どこかで安堵している自分がいる。 彼の前で自然に振る舞える自信がなかったから。 勿論、昼間教室にいればどうしたって会ってしまうのだけれど。 今まで気儘に動き廻っていたお陰で、彼の傍にいない時が長くても、別段怪しまれることもない。 彼がいなければ、特に一緒に行動する必要もないので、自然、城山と帰ることも少なくなった。 今日も彼は寂しそうな背中で、先に帰っていった。 もう日はとうに傾いていて、窓から射し込む光が、教室を緋色に染めている。 それでもまだ動く気がしなくて、頬杖をついて夕日を見るとはなしに眺めていると、背後で扉の開く気配がした。 「なにしてんだ、お前」 同時にかけられた聞き慣れた声。 振り向かなくても、誰だかわかる。 「…神崎くんこそ、どうしたの」 なんでもない風を装って、笑顔で振り返る。 とっくに帰ったとばかり思っていた彼は、いつもの紙パックを片手で玩びながら、こちらに近付いてきた。 そのまま、向かい合うように椅子の背を正面にして、腰掛ける。 机1つ分空いただけの距離。 「もう帰ったんだと思ってた」 「んー…あぁ、まぁな」 と、答えにならない言葉が返ってくる。 言いたくないことをわざわざ聞き出すつもりはないので、曖昧に笑顔で返した。 特にすることがあったわけでもなく、でも立ち上がって帰ることもせず、暫く無言で二人、窓の外を見ていた。 紙パックを啜る音だけが静かな教室に響く。 やがて、飲み終わりを報せるように、紙パックがへこむ音がして、それから徐ろに彼が口を開く。 「…なんか、夏目といんの 久しぶりな気がする」 「………そうかな」 咄嗟にいい応えは出てこなかった。 彼もそれきりまた黙ってしまう。 眉間に少し、皺が寄っている。 「今日はちょっと寒いね」 どうでもいいようなことを口にして、机の上で、所在なげに紙パックを弄る手を掴むと、一瞬驚いた顔をして、次に不思議そうに見つめられた。 「…神崎くんの手、あったかいね」 「なに言ってんだ、気持ち悪ぃ」 そうして引っ込められようとした手を、両手で包み込んだ。 益々彼は気持ち悪がったけれど。 うしても放すことができない。 なぜ、手を伸ばしてしまったのかすら、自分でも解らないでいた。 「少しだけ… このままでいてもいいかな」 常にはない様子を感じ取ったのか。 気持ち悪ぃと悪態を吐きながらも、素直に手を差し出していてくれた。 自分より、少しだけ小柄な彼の手は、勿論華奢でも柔らかくもなく、骨のしっかりとした手だったけれど。 自分よりずっと、温かくて、 愛しいと思った。 「……なつ、」 「帰ろうか。神崎くん」 彼は何か言いたそうにしていたけれど。 気付かない振りをして、先に立って教室を出た。 この掌から、俺の想いが流れ出て 君に伝染ればいいのに…。 title:"放課後の教室は少し寒くて、君の手はこんなにも温かい" by確かに恋だった ← |