MK5




「…ちょっ……っぶねぇ…」

昼下がりの公園。

小高い丘をぐるりと囲む木々の中、佇むアロハシャツの男。
まったくもって周りに溶け込まない派手な色合いのシャツは、緑の中隠れるには少々目立ちすぎる。
長い背と手足を精一杯縮ませ、木の陰から丘を見つめる姿は不審者以外の何物でもない。
彼が見つめるその先には、極至近距離で見つめあう二人の男。
二人はしばらく呆然と見つめあったあと、男から見て遠くにいる口ピアスの男が慌てた様子で飛びのいて距離をとった。

「……冷や冷やさせんなよ」

暫く様子を見守った後、アロハシャツの男―言わずもがな、姫川財閥の御曹司様だが―はその場を後にした。










「……なんか…長い一日だったな」

ヨーグルッチの紙パックをいつものようにペコペコ膨らませながら、器用に溜め息を吐く。
結果、充実していたように思う。
必殺技には失敗したが、何かを掴めたような、そんな達成感があった。
が、疲れていないと言えば、それは嘘だ。
体力がないわけではないし、これは精神的なものが大きいように思う。

早く帰って、ゆっくり風呂に浸かろう。と地面を見つめていた視線を上げると、目の前に見慣れた顔。

「よぅ、神崎」
「姫川?」

こんなところで何をしているのか。聞く前に相手が口を開いた。

「見てたぜ、”超”必殺技」

その微妙に馬鹿にしたニュアンスを感じ取り、相手をキッと睨みつける。
姫川はというと、睨まれるのなんて慣れたもので、飄々と笑ったままだ。

「…チッ。
俺は疲れてんだ、用がないなら帰れ」

売られた喧嘩は買う主義だが、今日はひどく疲れていたし、こいつの相手は面倒だ。
と、横をすり抜けようとすると、肩を無理矢理掴まれた。
ったく、そんなに喧嘩がしたいのか。

「…なんだよ」
「”あれ”よ」

てっきりまた厭な笑いを浮かべているのだろうと睨み返したのだが、思いのほか真剣な瞳に少し怯む。
その隙を逃さず、姫川が掴んだ肩を強く引き寄せた。

「もうやんな」
「…は?なんでテメェにそんなこと言われなくちゃなんねぇの」

言われなくても、暫く新・必殺技の考案はしないつもりだったが。
言われると、反発してしまうのは神崎の性だ。
しかも、返された答えはひどく気に入らない。

「無防備で危なっかしいから」

子供か!!
憤慨していると、急に目の前が暗くなる。

「……?」

目線を少しあげれば、姫川のよく見れば端正な顔がすぐ目の前に迫っていた。

「っな…?!」

そのまま近づいた顔は、不釣り合いに可愛らしいリップ音をたてて離れた。

「…………っ」
「キス、できちまうだろうが、あんなの」

あれは不慮の事故であり、神崎の必殺技は、ああなることを狙っているものではない。
少し、目測を誤っただけなのだ。
それ以前に、なぜ姫川がその現場を知っているのか。
ってか、こいつ今何した?!
色々な思考が交錯し、なかなかまとまらない頭で姫川を見上げて固まっていると、何を勘違いしたのか、一度離れた顔がまた近付く。

「…ぅお」

一瞬早く我に帰り、慌てて避けた。
不満そうな顔がこちらを見下ろしている。

「なにしようとしてんだ、このクソリーゼント!」
「キス」

しれっと言ってのける姫川の鳩尾に膝蹴りを一発。

「…っぐは!?」
「馬っっ鹿じゃねーの!!」

腹を抑えて蹲る姫川の背に、空になった紙パックを放り投げ、神崎はその場から走り去った。

達成感も疲労感も、もう神崎の中には残っていない。


「あのハゲ、絶対殺してやる!!」


拳を握り呟く神崎の耳が赤いのは、きっと怒りのせい。
















後日

「神崎、こないだの、俺にやってみ?」
(公然とキスしてやる)
「あぁ?!」
「ほら」(笑)
「………」(訝)
(絶対なんか企んでるよな…)
「………」(焦)
「……………」(睨)
「あぁ、また失敗するからやりたくないか」(挑発)

(……プツッ)

「……ダブルッ・踵落としいぃぃぃ!!!!」

「…ぐはぁああっ?!?!?!?」






「…完璧だ」




はじめちゃんの公園デビューネタ(アニバブ)を何か書いておきたくて、殴り書きSSでスミマセン。
姫川さんは男鹿と同じマジでキスする5秒前w期待して直撃食らえばいい←←と思って、超SSSギャグを書くつもりだったんですが、途中うまくギャグにもっていけずorz
オチにしましたw



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