夕焼け染まる帰り道。 神崎が、小さな毛玉を拾った。 神崎の手にじゃれて、柔らかな毛を擦り付ける。 こいつに懐くなんて、この仔猫もどうかしてる。 まだ小さなそいつは なぜかうちに居座ることになった。 その代わり、神崎が毎日うちにやってくる。 うん、悪くない。 初めはそう思っていた。 CAT TROUBLE 「かんざき」 寝起きに見つけた愛しい姿に吸い寄せられるように近付き、ぎゅっと抱き締めようとしたら、間に仔猫がいた。 ひどく煩わしい。 さらに神崎にまで 「潰れちまうだろ」 怒られた。 俺よりこいつか大事かよ、くそ。 そんなことが何度も続き、今現在、窓辺の特等席で悠々とねこけている仔猫は、姫川にとってかなり気に食わない存在になっていた。 初めのうちは、餌をやるために近付くのすら警戒している様子だったのに。 しかも宿も食事も、姫川あってこそ、この仔猫は与えられているのに。 なのに仔猫は神崎にばかり懐く。 蹴飛ばしてやりたい。 そんな衝動に駈られた瞬間。 殺気に気付いたわけでもないだろうに、パチッと丸い目をあけた仔猫は、目の前の姫川の脚に爪をたてた。 「ってぇ… ンなにしやがる、このくそ猫!?」 首根っこを掴んで顔の高さまで一気に持ち上げる。 仔猫は威嚇なのか、奇妙な声で鳴き、体を捩って暴れだす。 「大人しくしやがれっ!!」 怒鳴った瞬間、暴れる仔猫の脚が顔を掠めた。 まだ小さいが鋭い爪は、しっかりと姫川の皮膚を傷つけ、僅かばかりの血が滲み出す。 咄嗟に投げ出してしまったが、見れば仔猫は、ひらりとソファに着地していた。 忌々しいことこのうえない。 「…あぁ、くそっ!!」 猫に怒鳴り散らしたってどうにもなりはしない。 「いてぇ…」 指先で頬に触れると、少し腫れているようだ。 「なんだお前、それどうしたんだよ!?」 帰ってくるなり、顔の傷を指差して笑う神崎に憮然とする。 無言でカーペットの端で丸まる仔猫を指差した。 「なんだ、お前か」 神崎が近付くと、仔猫は立ち上がり、その足元に擦り寄る。 姫川は不機嫌極まり顔で、神崎を睨んだ。 「不公平だ」 「は??」 餌も宿も与えている自分に懐かず、神崎に懐くのも。 仔猫に神崎が優しいのも。 神崎は姫川の隣に腰かけ、足元の仔猫を抱き上げる。 「お前、姫川の馬鹿を引っ掻いたのか」 仔猫は可愛らしくみゃう。と鳴いてみせた。 益々気に入らない。 「もう俺寝るから。 そいつ、ちゃんと躾とけよ」 立ち上がり、寝室へ向かおうとする姫川はしかし、手首を捕まれてソファに引き戻される。 「なんだよ。 こいつが俺にしか懐かないから妬いてんのか」 「ちげぇよ」 半分は当たってるけどな。 妬いてる対象が逆だ、馬鹿。 手首を掴む腕を振り払い、立ち上がろうとすると 「姫川」 名前を呼ばれ、振り返りきらないうちに、頬に柔らかい感触。 ピリッと、傷口に電気が走る。 「…かん、ざき?」 「早く寝ろ、馬鹿」 自分からしておいて恥ずかしいのか、目線を合わせず、仔猫ばかり見つめる神崎の耳は真っ赤だ。 「……神崎 一緒に寝よっか」 顔面に仔猫を押し付けられ、生傷がまた一つ増えた。 神崎君が仔猫とかに懐かれてたら可愛いなって思っただけ← 姫川は動物や無機物にまで妬いちゃえばいいよ ← |