今日は珍しく車でもヘリコプターでもなく、二人してだらだらと歩いていた。
特に予定があったわけではない。
やっと過ごしやすい気温になり、今日は天気も頗るいい。
部屋に籠っているよりずっといいと神崎が言い出したのだ。

「ゲーセンでも行くか?」

猫背の姿勢をぐっと反らせて、神崎が間延びした声で言う。

「や、それ。うちで良かったじゃねぇかよ」
「んー、そうだけどよ。 部屋と店とじゃなんか違うんだよな」

その”何か”は恐らく”人”だろうと姫川は思う。
人は使うもの、利用するものというのが根本的な考え方で、自分に得にならない交友をする気のない姫川と違い、神崎は意外と交友関係が広い。
卑劣なことだってしてきたくせに、やけに周りから慕われる性質なのだ。
誰かが、一種のカリスマ性だと言っていた。
その表現には同意しかねるが、それでも神崎が姫川にとって、どこか眩しい存在であるのは、その人を惹きつけてやまない不思議な性質のせいだろうと思う。

つまり、姫川にとってはゲームができるならどこでも同じであり、神崎にとっては、家と店とでは、ゲーム以外で出会えるものが違うのだ。

商店街を通り抜ける間にも、何度も後輩に呼び止められていた。
その度姫川は、煩わしさに舌打ちするのだが、きっと神崎は気付いていない。

「おい、かんざ――」
「あ、神崎くーん!」「神崎さんっ!」

突然背後からかけられた声に、姫川の呼びかけは掻き消されて、自然、また舌打ちしてしまう。

姫川でさえ、振り向かずとも声でわかる。
神崎にならって歩みを止めると案の定、夏目と城山が駆け足でこちらに寄ってきた。
「二人して、何してるの?」
「別になんもしてねぇよ。ゲーセンでも行こうかと思ってたとこだ」
(まだ行くって言ってねぇよ…)
不満はひとまず口には出さずに飲み込んだ。
急ぎの予定がないとわかると、夏目はそういえば。と神崎に何やら話しを切り出して。
そのまま話し始めてしまった3人の会話に混ざる気もしなくて、姫川はその少し横で携帯を弄りだす。



それから幾分か経って、姫川がこっそり車を呼び出した後も、会話は終わらないらしく。
それだけでなく、神崎は話題に夢中なのか、その間こちらを見向きもしなかった。
仮にも、今日はデートではなかったのか。
期待するだけ無駄なのはわかってはいたが、どうにも面白くない。

携帯を持たない左手を神崎へと伸ばして、その腰をぐっと引き寄せた。


「マジかよ城山!お前それ…――っ?」
急に強い力で腰を引き寄せられて、神崎の体が慣性の法則に従って左に傾く。
慌てて差し出された城山の手からも逃れるように、そのままの勢いで体が反転させられた。

「ちょ、おい!姫川っ?!」
驚いたのと急に腹部が圧迫されたのとで、神崎は軽くせき込みながら、腕の持ち主を睨みつけるが、姫川は我関せずといった態で無表情のまま携帯を弄っている。

「……なんなんだよ」
応える気はなさそうなので諦めて、勝手に抜け出そうと試みるが、腰はがっちりホールドされていてうまくいかない。
城山が手助けすべきか迷っている様子で手を空中で無意味に彷徨わせている。
夏目に視線を遣ると、何がおかしいのか、口元に手を当てて笑っていた。
怪訝に思いながらも、また姫川を仰ぎ見る。

「おい、ひめか――「あ、神崎くん!」

「俺と城ちゃん、予定があるからそろそろ行くね」
「夏目…?」
「ほら、行くよ、城ちゃん」
「お、おう…?」

急に大声をあげた夏目は城山のシャツを掴んで、半ば無理矢理に元来た方へと歩き出した。
城山は、わけがわからないというように視線を彷徨わせながらも、神崎に小さく頭を下げて夏目に引かれるまま、歩き出す。

「姫ちゃん、またね」
夏目が一際大きな声でそう言って、完全にこちらに背を向ける。
すぐ傍にいる姫川から、舌打ちの音が聞こえた。




「…………」
「…………」
「……ぇと、姫川?」

「……行くぞ」

腕の力はあっさりと抜かれて、すぐに姫川は先にたって歩き出す。
「おぅ…?」

結局なんだったのか。
神崎は首を傾げながら、少し先を速足で進む姫川に追いつく。



姫川の隣に並ぶと、また小さく舌打ちが聞こえた。







姫ちゃんはよく舌打ちすると思います。
思い通りにいかなかった時や、人に先手や上手をとられた時。
男鹿と夏目と自分に対してが多いんじゃないかな。
神崎君を取られちゃったことと、それに嫉妬しちゃった自分と、それに気付いちゃう夏目、そして気を遣われちゃったこと。
まぁ、ただ舌打ちする姫ちゃんが好きなだけなんだけど。私が←
更新サボリっぱなし&久々の更新がこれですいませんm(_ _)m





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