MONEY




くそ忌々しい一年に不覚にも傷を負わされ、入院した。
数日後、頼んでもいないのにくそみたいなフランスパンが届いた。
なんのことはない。
この馬鹿もあの一年にやられたのだ。
どうせまた卑怯な手でも使ったのだろう。
それで負けるとか、底が知れるな。

そんなわけで、仕方なくこいつと寝食を共にして数日。










「…も、ほんと。なんなのお前」


「あ゛ぁ?なにいきなり喧嘩売ってんだ、このモサヌメリーゼントっ!!!」


城山と夏目からの見舞い品のヨーグルッチを飲み干し、気分よくパックをペコペコ膨らませていたら、突然姫川が呟いた。
ため息混じりに呟かれた言葉は、ばっちり耳に入ってくる。
喧嘩を売ってるのかと、睨み付ければ、疲れたような顔で目を逸らす。

まじで、お前がなんなんだ。

「てめ、自分から喧嘩売っといて、無視か、あ゛ぁ?!」

「別に。…喧嘩売ったつもりはねぇよ」

「………」

なんだ。
この拳はどうしてくれる。
ばっちり臨戦態勢だっつーの。




「…とりあえず、一発殴らせろ」
「なんでだよっ!」
「この手が引っ込みつかねぇだろうが!!」
「しるかよ!?
これでも食っとけばいーだろ!!」

手近にあるフルーツを押し付けられた。
つーか、これは俺の見舞い品だっての。

よくわかんねぇが。
とりあえずフルーツ(バナナだった)を握ってしまったので、仕方なく食べることにする。

こんな調子がしばらく続いていた。
やたら視線を感じて、睨み返せば目を逸らす。
嫌味を言うでもなく、殴りかかってくるでもなく、こっちの調子が狂う。
あ、バナナうまい。


「…それ」
「あ゛?」

だんまり決め込んだと思ったら、急に姫川が声をあげた。
顔を向ければ、目線はやはり外したまま、こちらを指差している。

「いくらだ」
「は??」
「だから…"それ"いくらだってきいてる」
「"それ"って…」

無駄に長いあいつが指差している先には…俺?
いや、バナナか。

「これのこと言ってんのか」
「いくら払えばいい?」

そんなに食いたいのか。

「300万」

サラッと。
いつかと同じように返してやる。
またぼったくりだってキレやがるかな。
ちょうどいい。
喧嘩がしたくてウズウズしてんだ。
そんな期待を込めて姫川を見返すと「ほらよ」と紙切れを渡された。
なんだこれ。
紙幣でもないその紙切れを裏返し、光に透かし…


「300万…?」

これは所謂、小切手というやつか。
いや、本物見たことないし。
俺を馬鹿にしてんのかもしれない。

「どうせ偽物なんだろー。
ま、そんなに欲しいなら、"特別"にやらないでもないけどな!!」

「本物だけどな。
…いいから早くよこせよ」


「わぁったよ。
勝手に取りゃいいだろ、ほれ」
そうして、間においてあったバナナの入ったバスケットを押してやる。










「…わかった」

やけに近くで声がするなと思ったら
目の前が銀色だった。




銀色の…リーゼントか???


認識した時には、既に姫川は隣のベッドに腰かけていた。

「???」

わけがわからない。
なんだ、何がしたかったんだ、お前。
ふと目線を下げると、食べ掛けのバナナが皮だけになっていた。

「は?
なに、お前。
食いかけ食ったのか??」

「"それ"つっただろ」
「いや、そうだけど…」

わけわかんねぇ。
…きっと馬鹿なんだな。うん。
勝手に納得することにした。
考えんの面倒くせぇし。




それがいけなかったのか









「"それ"いくらだ」
「あ゛?またかよ…」


やたら俺の食ってるもんを欲しがりだした。
人のモン欲しがるとか、子供か!!
その度、本物か偽物かよくわかんねぇ紙切れを渡してくる。

別に、食いかけやってるだけだから、偽物だったとこで問題はないが。
なんだか与えるだけなのも癪に触る。
よし、次はギリギリ現金で払える金額を請求してやろう。






「"それ"いくらだ」

城山からの差し入れのヨーグルッチを飲んでいたら、また姫川がこちらを指差して言った。

「キャッシュで30万」

「…そんなもんでいいのか。
ちょっと待ってろ」

「お…おぅ?」

そうしてどこかに電話をかける。
「30万」ってきこえた。
まじで払う気か、こいつ。

いや、貰えるもんは貰うけどさ…。
なんか後ろめたい気がして、つい癖で噛んじまってたストローを、少しでも元の形にならねぇかな。なんて弄ってみた。




暫くして、スーツをきたいい大人が馬鹿丁寧にお辞儀をして入ってきた。
そして姫川に紙袋を渡す。
それだけ渡すと、俺には挨拶もなにもなく、出ていった。


「ほらよ」

俺のベッドに移動し腰かけた姫川が、その紙袋を俺の胸に押し当てる。

「…おぅ」

なんかよくわかんねぇけど…
とりあえず、受け取った。












「受け取ったな?」


「あ゛?」


急にトーンが高い声がする。
いつもの
人を陥れる時の姫川の笑顔が目の前にあった。

「なに…」
と言いかけた言葉は呑まれた。

なにって

姫川の唇に









「…っな
なななにしやがるっ!??!!??」

うまく言葉がでない。

なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ

ちょっとしたパニックに陥っていると(当たり前だ!!)、いつのまにか俺を跨いでのし掛かった姫川に手首を掴まれ、現実に引き戻される。

「金、受け取ったんだから
俺のモンだよな」

「なに、言って…」

姫川が欲しがったヨーグルッチは、今の一連のうちに床に落ちていた。




「"それ"いくらだっつったんだ」

無駄に長い指がまた俺の方を指差す。



「…………」

「"神崎一"」








!?!!??!!!???!!!!????








骨張った指が喉を撫で上げる。

気持ち悪いったらない。




なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ


























「……嘘だろ??」







サングラスを外す嫌な音がした。

















How Much?

ずっと
俺が欲しかったのはお前だ



可愛い告白が思い付かなかった。
ちょっとうすら寒い感じで←
姫川さんは基本神崎にベタ惚れでヘタレ希望ですが、俺様イケメン遊び人も素敵だと思うんだ!!!←←




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