HIMITSU





秘密の関係というやつは、響きだけならやたらいい。

でもその実、色々と面倒なことや、やきもきさせられることが多い。

相手が同じ学校にいれば尚更だ。

どうしたって毎日顔を合わせるのに、二人の関係を周囲に気取られないように振る舞うのは、意外と骨が折れる。

特に自分は別段隠したいと思っていないのだから、言動や行動の節々でそれがでてしまっているらしく、気づけば睨まれていることがよくあった。

こちらとしてはむしろ、さっさとバレてしまえばいいいとさえ思っているのだから、仕方のないことだろう。

そうすれば、変な虫が寄ってくるのも防げるし、何より四六時中周りを気にせず引っ付いていられる。

自分じゃない誰かが、彼の近くにいるのをどうして指を銜えて見ていなくてはならないのか。

ほらまた、肩なんて抱き寄せられて、平気な顔して笑っている。



「…俺の気もしらねぇで」

「……おい、男鹿」



吐き捨てた言葉は、隣の古市の耳に拾われたらしい。

小声で耳打ちされた。

「お前、顔」

「あぁ?」

「睨んでるって!」

平気な顔でいられるわけがない。

悔し紛れに、顔が怖いのはもともとだ。なんて茶化してみたが、眉間の皺はそのままだ。

「まぁ、気持ちはわからんでもないけどな」

そうして古市の手が慰めるようにそっと肩におかれる。

お前と一緒にするなと怒鳴りたいところだが、そこはそれ、唯一この秘密の関係のことで愚痴を言える相手だ。思いとどまる。

古市が知っているということも、彼には当然秘密にしている。



「あいつ、また…」

そうしてまた彼へと視線を戻すと、何かおかしいことでもあったのか、肩を寄せて笑い合っていた。

だから、近いっつーんだよ!!

心の中で叫んで相手を睨みつけると、一瞬目が合って笑われたような気がした。

「っっ!!」

思わず拳を握りしめて立ち上がる。

慌てた古市が全体重で押さえつけてきた。

「放せっ、古市!!」

「だから、やめろってっっ…」

そのやりとりで椅子が派手な音を立てて倒れる。

クラス中の視線が自分に集まってきて、仕方なく大人しく椅子を戻した。

「そんなことしたら、また神崎先輩に怒られるぞ。

嫌われたくないだろ」

「ぐっ…」

一気に力が抜けて、机に突っ伏する。

「嫌なら見なきゃいいのに」

隣で溜息を吐く古市の鳩尾に軽くパンチを入れてやった。

そんなことはわかってる。

わかってはいるけれど、気持ちがついていかないのだから仕方ない。

そうしてまた自然と向けてしまった視線が思いがけず正面から受け止められる。

「ぇ…」

そのままこちらへと近づいてくる姿から目が離せず、間抜け面のまま固まっていたら、

すぐ目の前までやってきた神崎に腕を掴まれた。

そのまま乱暴に引き上げられる。


「っは?」

「男鹿、ちょっとツラ貸せ」


素直に引きずられて教室を出る。

廊下を進み校舎からも出て、ずんずん大股で進むのに引きずられ、また制服のシャツが伸びたと姉に怒られるだろうな、とどうでもいいことを考えた。













グラウンドや正門から離れた人気のない校舎裏まで歩いて、やっと解放された。

「……神崎?」

なんだか怒っている風な横顔を覗きこむ。

やはり、先ほどのやりとりが聞こえてしまっていたのだろうか。

自分では悪いことをしたとは思ってないが、彼が怒るのはわかっていたのだから、先に謝るべきだろう。


「すまん」

「なにが」


素直に頭を下げたにも関わらず、聞き入れるつもりはないらしい。


「……怒ってる?」

なるべく反省して聞こえるよう、殊勝な声音で問うてみるが返事はない。

自分の学校での態度で怒らせたのはもう何度目だろう。

いよいよ本気で怒らせてしまったのかと、父直伝の必殺技を出す心構えをしたところで、突然脛を蹴り上げられた。


「――ってぇ!!!

っいきなりなにすんだっ!?」

「……むかつく」


だからって、殊勝にも頭を下げて謝る恋人に対してこの仕打ちはないだろう。

脛を抑えて痛みを堪えながら見上げると、視線を外された。





「…………ベタベタしてんじゃねぇよ」

「……は?」


視線を逸らしたまま吐き出された小さな声に、つい間の抜けた声が出る。

それは自分がぶつけたい不満であって、言われることじゃないはずだ。

わけがわからなくて言葉を返せずにいると、じれったかったのか、今度は背中を蹴られた。

「ってぇよ!」

完全に地面に膝をついてしまった格好悪い状態で睨みつける。

神崎はまだ不満なのか、視線を合わせてはくれなかった。

「おい、神崎」

「……」

「俺が、いつ、誰と、ベタベタしてたって?」

「……さっきしてただろーが」

つい先ほど、昼休みの記憶をたどるが、一人で嫉妬して暴れて凹んで、なぜか怒っているらしい神崎にここに連れてこられたという記憶しかない。

「してねーだろ」

「してた」

「誰と」

「……古市」



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………はぁ?!」




言葉を理解するのに数十秒を要してしまった。

まったく予期してしない言葉だったからだ。

「ち、近ぇんだよ、顔が…」

「いやいや、それは俺が言いたい!」


神崎が怒る必要はまったくないのだが、しかし。

つまりは、嫉妬していたのは自分だけではないということだ。

そう理解すると同時に、触れたい衝動が全身を駆け巡って、本能のまま目の前の体を抱きしめた。

「っ男鹿?! は、放せ、ばかっ!!」

「やだ」


暫くそのままでいると観念したのか、抵抗がやんで体が委ねられたのを感じる。

「俺だけかと思ってた」

「なにが」

「好きなのも。嫉妬しちまうのも」

「ばか言え」


俺たち、付き合ってんじゃねーか。


すぐ耳元で恥ずかしそうに告げられた言葉に、全身の血液が右耳に集中した。

心臓が耳の横で唸っているようだ。

鼓動を追い払うように顔をふりあげて、すぐ目の前の神崎に口づけた。

そっと返される口づけに、また心臓が唸りをあげる。

誰もいない校舎裏で秘密のキスなんて、漫画みたいで魅力的だ。







だけど








「なぁ、バラしちまおぅぜ」

「それはダメ」





仕方ないから、そのまま教室には帰らずに、空き教室に連れ込んだ。

















お互い嫉妬してたらかわいいな、と。
なんかオチがまとまんなかった…orz まぁ、いつものことなんですが←←
皆にバレバレなんだけど、隠してるつもりな二人。




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