初日出





除夜の鐘が鳴り終わって、新年を迎えて。
部屋で一人、布団に潜り込んだ。
年越しを一緒に祝う相手がいなかったわけではないが、誘いをすべて断って、万が一に備えて予定をあけていた。
恋人は大晦日、正月だというのに相変わらずバイトの日々で。
日付が変わっても、まだ連絡はない。
冷えきった布団にもぐり込みながら、誰かと遊べばよかった、と今更後悔した。
枕元に携帯を置いてふて寝を決め込もうと瞼を閉じた瞬間、思いがけず鳴り響いた着信音に飛び起きる。
取り損なった携帯が床に落ちて、着信音は止まった。

「・・・っくそ」

慌てて携帯を拾い上げて画面を確認すると、バイトをしているはずの恋人の名前が着信履歴に表示されている。
慌ててかけ直すと、すぐ、威勢のいい声が返ってきた。

「はじめ!起きてたか?」
「ちょうど寝ようとしてた」
「あー・・・そりゃ、悪かったな」

携帯の向こうからは、微かに車の行き交う音が聞こえる。

「お前、バイト中じゃねーの?」
「今終わった。
次のバイトまで時間があるんだけどよ、ちょっと出てこれねぇか?」
「どこにいんだよ」

「もうすぐお前んちに着く」
「は?」

慌てて携帯を繋いだまま、器用に寝着を脱ぎ捨てた。
適当な服を掴んで着込んだところで、タイミングよく到着を報せられる。
携帯をポケットに押し込み、上着に袖を通しながら外へと出ると、門の前に自転車に跨る東条がいた。
「よぅ」
体躯に似合わず屈託のない笑顔が自分を出迎える。
「後ろ、乗れよ」
「ん」
自転車に足をかけると、すぐさま自転車は猛スピードで駆けだした。










もう2時間ほどは経っただろうか。
未だ速度の落ちない自転車に、体力の差を見せつけられながら、周りを見渡す。
やけに田舎の方へ向かっている。

「おい、東条」
「あー?」
「どこ行くんだよ」
「もうすぐそこだ」

そうして出発と同じに、急に自転車は止まった。
衝撃で自転車を漕ぐ背中に思い切り激突する。
ビクともしない体に小さく舌打ちしてしまった。

自転車を降りると、手を掴まれてずんずんと進み出す。
引かれるままついていくと、林の中に入り込んだ。
道と呼べるか微妙な草地を上へ上へと進んでいく。
どうやら山か小高い丘になっているらしい。
腕を掴まれたままでは歩きにくいことこの上なかったが、言ったところできいてはくれないだろう。

「なぁ、どこ行くんだって」
「この丘の上」
「なんで」
「見せたいものがある」

あまり口数の多くない彼に質問を投げてみても、答えになっているようななっていないような、的を得ない返事しか返ってはこない。
仕方なく黙ってついていくことにした。
自由な片手で携帯を開いてみれば、時刻は既に4時を廻っている。
吐く息が白く、暗い周囲に浮かんで見えた。







寒さでなけなしの体力も限界を迎えた頃、一層力強く腕を引かれ、引き上げられる。
どうやら目的の場所に着いたようで、相手の歩みが止まった。
顔を上げれば暗闇の中、朧気ながら視界に広がる山々が見える。
林の木々が開け、二人のいる空間だけがぽっかりと切り取られたように浮いていた。
林の中もところどころ伐採されていたようなので、その爪痕だろうか。

「・・・なにーーー」
を見せたかったんだ。と口を開きかけて、逞しい腕に引き寄せられた。

「・・・とら?」

腕の中に抱き込まれて、訝し気に顔を見上げればまた白い歯を見せて屈託ない笑顔を向けられる。
背中と廻された腕から相手の温もりが伝染って、寒さが少し和らいだ。
相変わらず吐く息は白いままだが、もう少しならこのままいてやってもいいと思えた。







「ぁ・・・・」

暫くそうして温もりに包まれていると、目の前に見える山肌がぼんやりと光り始めた。
光はどんどん漏れだして、目の前の景色に色を与えていく。




今年一年の幕開けを祝うかのように、
煌々と輝く太陽が、ゆっくりと山肌から現れる。





「・・・・初めて見た」

呟くと、背後で笑う気配がした。
見る間に山は輪郭を現し、周りの木々も輝き出す。



「お前に、見せたかった」
「・・・・・スゲェ」
「なんか、はじめみたいだろ」
「?」

髪に顔を埋めて話すものだから、息が首筋や耳朶にかかって擽ったい。

「キラキラ光ってて、きれいだ」
「っ・・・////」

裏表のない言葉に、真っ赤に染まる顔を隠すように手で覆うが、相変わらず空気が読めない相手は「どうした?」とこちらの体を反転させて顔をのぞき込んできた。

「・・・・・なんでもねぇよ」

顔を逸らしたくて、抱き合う形になったがそのまま胸に顔を埋める。
広い胸板も伝わる熱も、今はなんだか心地よくてそっと目を閉じた。




「なぁ」
「・・・んだよ」
「キスしていいか」
「・・・・・ーーーっっ」












返事の代わりに、袖をぎゅっと握りしめる。





寒い中で振れた唇は、やけに熱かった。











初日の出、今年はあんまりお天気よくなかったそうですね。
空気読めない話になりました←
虎は以前バイト中とかに見かけて、キレイだから見せてやろう!とか思い付いたんだと思う。
無邪気純粋虎設定に萌えます。
虎禅も萌えますw






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