霧中 思ったより遅くなってしまった。 靴箱から乱暴に下履きを取り出しながら、小さく舌打ちする。 今日も姫川は校門で嫌味たらしく待っているに違いない。 さも長く待たされたと言わんばかりの表情がちらついて、眉根を寄せながら、急いで校門へと向かった。 やはり、いつものその場所に佇む派手な形と色の銀髪を見留め、わざと速度を落としたところで、自分より先にそこに歩み寄る姿を見つけて立ち止まった。 聖石矢魔の制服を着たその少女は、軽く頬を染め、緊張した面持ちで銀髪に向かっている。 「………」 これは所謂、告白現場というやつだろうか。 元々自分たちがいた石矢魔ではまずお目にかかれなかった光景だ。 学園祭での試合以来、姫川のあの見た目に騙された女子から少なからず告白されているという話はきいてはいたが、目の前で見たのは初めてだ。 勿論、それに興味がないわけではなかったがしかし、神崎の体はそれ以上見ることを拒絶した。 早足に歩き出し、そのまま速度を落とさずに横をすり抜ける。 神崎を見留めた姫川が声をかけてきたが、気にせず通りすぎた。 「――っくそ」 なんだってんだ。 本日何度めかの舌打ち。 むかつく。 先ほどの二人の姿が脳裏にちらつく。 似合っていたと思う。 自然だと感じた。 見た目も、身長差も、体格も、性別も。 あれが正常だ。 「…むかつく」 姫川も。 あの女も。 そんなことを考える自分も。 「おい、待てよ。神崎!!」 背後から追ってくる声をひたすら無視して歩き続けた。 あと少しでいつもの分かれ道に差し掛かるというところで、後ろから手首を掴まれて、バランスを崩した。 「―っと。大丈夫か?」 不本意に支えられた腕を乱暴に振り払う。 「触んなっ!!」 「なんなんだよ、おい。 お前と帰るために待ってたんだろ」 「頼んでねぇよ!!」 「…ほんと、どうしたんだよ、お前」 そのまま怒鳴り返して、帰ってくれればいいのに。 神崎の様子を訝しんでか、少しばかり孕んでいた怒気が消え、甘やかすような声音で顔を覗きこんでくる。 「…むかつく」 「………は?」 「――告白なんかされてんじゃねぇよ!!」 「神崎?」 「姫川のくせに!! なんでモテてんだよ!! テメェはモサッとしてヌメッとしててっっ…!!」 何が言いたいのか自分の中でもまとまらないまま叫ぶ。 次の言葉を思い付く前に、強い力で引き寄せられ、気付けば姫川の腕に抱き締められていた。 「テメ、なに考えてんだ!はなせ!」 「お前さ、それわざとじゃねぇの?」 「なにが!?」 「怒鳴るなよ」 「うるせぇ!」 「神崎、それってさ…」 "ヤ キ モ チ" 耳に直接吹き込まれた声に全身が粟立ち、勢いのまま目の前の胸を押し返した。 「っっんなわけあるか!! 頭沸いてんのかテメェッッ!?」 腕から逃れ、正面から睨み付けるが、姫川の顔は至極嬉しそうで、口許が緩みきっている。 悪い予感しかしなくて一歩後退ろうとするが、姫川の手に手首を掴まれて阻まれた。 「神崎、 俺が好きなのはお前だけだ」 「―っ放せ!」 「言うこときいてやるのも 一緒に帰りたいのも 抱き締めたいのも キスしたいのも 組敷いて啼かせた…「黙れ、変態!!」 「…もうまじなんなんだテメェ、 今すぐ死んでくれ」 眉根を寄せて、困ったような表情で言われても、姫川の笑みは増すばかりだ。 振り払われない手に更に力を込めて、姫川は口端をあげた。 首を垂れ、少しばかり下にある真っ赤な耳に顔を近付ける。 「俺が愛してんのはお前だけだ。 覚悟しろよ、はじめ」 自分の肩が震えているのは 怒りなのか 羞恥なのか 歓喜なのか 恐怖なのか わからないまま、神崎は地面を睨み付けるように更に首を垂れた。 神崎くんが乙女です← でもきっとサラスト姫川はモテると思うの。 最初は神崎にもっと色々考え悩んでもらってたんですが、なんか神崎じゃなくなったので却下しました←← 神崎の不安とかも全部、姫川が包みこんじゃえばいい。という妄想www ← |