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草むらから躍り出て来た人物を見て柳は口許に薄く笑みを浮かべると、両手に構えたクナイを投げ放った。


予めクナイが飛んでくる事を予測していたのだろう。


敵であるその人物はひらりとそれを交わした。


次いでクナイとクナイがぶつかり合う。


『お久しぶりですね、隊長』


口許を布で隠しているためくぐもった声でそう告げた。


「そう呼ぶのは君くらいのものですよ」


『ーーー裏切者』


憎しみを込めた声でそう言われた。


ーーー裏切者。


それを聞いて柳はふっと笑う。


裏切者?可笑しな事を言う。


自分の君主はずっと変わってはいない。


「私の君主はあの方だけです。今も昔もね」


それを聞いて相手は目をカッと見開いた。


『……貴様っ!』


カッとなった男が柳にクナイを振りかざす。


間に合わない、と思った。


柳が振り下ろされるクナイに目を奪われている刹那、ぽっかりと空いた上空に、月を背に人影が映る。


ガキィン……。


振り下ろされたクナイが跳ね返される。


柳ははっと目を見開いた。


「白蛇……」


そこには自分を庇うようにして白蛇がクナイを構えていた。


「おやっさんは下がって」


はらりと白蛇の被っていた手拭いが地面に落ち、隠されていた金髪が顕になる。


首の後ろで束ねた髪が揺れる。


『……その金髪は……まさか……』


白蛇の金糸のような髪を見て指を指しながら男は震える。


それを見て柳は白蛇を自分の背後に追いやる。


「おやっさん……?」


困惑する白蛇を見ることなく柳は目の前の男をにらみ据えた。


「下がっていなさい」


『あ、貴方は……自分のしたことを…分かっているのか?』


「さあ?」


『その方にどれだけの価値があると…』


「これは私の息子ですよ」


『息子……馬鹿な……』


そう呟くと男は顔を押さえながらよろよろと前進する。


「ーーー残念です。貴方は、私を慕ってくれていましたから」


そう言うと柳は両手に構えたクナイを放った。








目の前にかつての部下が倒れている。


逃亡すると決意した時からいつかこうなることは分かっていた。


自分がまだ隊長を勤めているときは自分を慕ってくれていた。


裏切者。


彼等からしたらそうだろう。


「おやっさん……」


俯く柳に白蛇はそっと声を掛ける。


振り向いた柳はどこか傷付いた表情に白蛇には見えた。


「おやっさん……ごめん、俺のせいで」


「気にするな。お前をこの逃亡に引き込んだのは私だ。そしてお前の母からお前を託されたのは紛れもなく私だ。むしろ私は嬉しいんだ、血の繋がりはなくてもお前を息子と呼べて。私は本来はお前の母に使えていた身。本来なら身分が違いすぎる」


「この人は、かつての部下だった人?」


「……ああ。かつての部下に追われ、その部下を手に掛けても何も思わなくなった私はもはや人ではないのかもしれないな」


そう言うと柳はくるりと背を向けた。


「急ごう」







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