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* * *





部屋の外に誰もいない事を確認すると蓮華は菘に着いてくるよう促した。


「要はあんたが潜入できればいいんだろう?」


「え、ええ、でも……」


「丁度泣き暴れて摂関部屋に連れていかれた子がいてね。大丈夫、上手く行けば会えるし、失敗しても和葉様が助けに来てくれるよ」


そう言うと蓮華は足早に廊下を歩いていく。


菘は蓮華に隠れるようにぴったりと背後を着いていく。


いつ人が来るかとはらはらした。


ギィッ、ギィッ…。


不意に突き当たりの階段の方から誰かが登ってくる足音が聞こえた。


「……話を合わせて」


そっと蓮華は振り返り菘に耳打ちする。


「おや?蓮華、お客様はどうした?」


「あの人はお帰りになりましたよ」


「そうか……して、その後ろの娘は?」


「綺麗でございましょう?あの人に頼まれましたの、化粧を教えてくれと」


「ほう…化粧をか。ならなぜこんな所を歩いている?」


「……簪を交換してもらおうかと思いまして」


「簪?」


「ほら、私のはこの娘に合わないでしょう?だから誰かに交換してもらおうかと思いまして」


そう言いながら蓮華は懐から丁寧にくるまれた布を取り出し、さっと開くといくつか簪を取り出して見せた。


「…………」


しかし楼主は黙ったまま蓮華の背後を睨み付ける。


「親父さま?」


楼主の様子がおかしい気がして蓮華は首を傾げた。


「先程、ある男が訪ねて来てな。……娘を探しているそうだ」


重たい口を開くようにゆっくりと楼主は言った。


蓮華ではなく、菘の方を見て。


一歩、菘は後ろに下がる。


そしてふと気配を感じる。


背後から何人かこちらに向かってきている。


どうやらバレていたようだ。


懐に手を忍ばせそこにあるものを掴もうとしてすはハッとする。


「……っ」


短刀はここへ来る前に和葉に取り上げられてしまったのをすっかり忘れていた。


内心焦りを感じつつ菘は蓮華の方をちらりと見る。


蓮華は何が何だか分からないというような顔をして楼主に必死に説明していた。


彼女はあやかし屋の協力者だという。


けれどとても戦える様には見えない。


恐らく情報屋のようなものだろうと菘は結論付けて楼主を睨む。


「その人は……何も知らない」


「己は何か知ってると言うことか」


「彼女はどこ」


「はて、連れてこられた娘なら山ほどおるからな」



「奉公に出すと言って連れてきた子です」


「さあ…そんなのーーー山ほどいる」





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