02
「・・・・・・そうか」
杯を片手に和葉は少し寂しそうに目を細める。
「申し訳ありません、こんな時に」
「いや、良い。お前はいつも桜が咲き始めると旅に出るな」
「・・・・・・墓参り、ですよ」
そっと目を閉じれば遠い記憶が脳裏に蘇る。
記憶の残滓を振り払うようにして蒼詠は立ち上がる。
「月見酒。・・・あまり飲み過ぎないようにしてくださいね」
「お前よりも丈夫な造りになっている」
「そうではなくて。鈴姫様が心配されていますよ、きっと」
妖怪には酒豪が多いが、混血である彼らとて例外ではない。
特に和葉は朝まで飲んでもそうとう強い酒でないと酔わない。
初めこそ驚いていた菘だが、最近ではその量に少し心配している様に蒼詠は思う。
といっても知り合ってまだ数日程度だが、彼らは菘が始めてここに来た時から様子見をしていたため彼女のことは少なからず知っている。
「・・・・・・無理だな」
でしょうね、と溜息を吐きながら蒼詠は笠を被る。
彼は先代の頃からここにいる。
先代、和葉の父親もかなりの大酒飲みだった。
それを見て育った和葉だ、無理もないとも思う。
「ああ、そう言えば。蓮殿はどうしますか?伝えておきましょうか?」
「・・・・・・ああ、そうだな。また追って連絡するからとりあえずはそのままでと伝えておいてくれ」
「分かりました。蓮殿は、鈴姫様に懐きそうですね」
「お前は?」
「―――懐きませんよ」
ふっと笑うと和葉は杯の中の酒を一気に仰いだ。
正面を向いた時にはもう既に蒼詠の姿は消えていた。
* * *
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