第二章 01

 
 
「ふん。随分とお怒りだね、姫」


岩場に腰かけると、霜惺から竹筒を渡される。


中に入っている水を飲みながら彼を睨み付ける。


「あなた、底抜けなの?」


「何が?」


「これだけ山道を歩いているのに息が乱れてないじゃない。あなた、そんなに体力あったっけ?」


それを聞いて霜せいは苦笑いを浮かべる。


「まあ、いろいろとね。妖退治が多いし・・・気が急いているのかな・・・」


「どういうこと?」


少し困ったと言うような笑みを浮かべると、彼は空を見上げた。


決して座ろうとはしない様だ。


「癖、かな」


はは、と乾いた笑みを浮かべる。


「式がね。少しでも油断すると寝首をかこうとするからかなぁー」


「式・・・」


「まだ会った事はなかったね。そのうち会わせてあげるよ」


式、という言葉に脳裏に浮かんだのは青風の姿だった。


今も、またどこかで寂しそうな目をしているのだろうか。


それと同時に龍作の容態も気になった。


「・・・今日は式は連れてないの?こんな山越えなのに」


「邸の方を任せて来た。それに、桜木の姫じゃなかったら二人きりで山越えなんてしないさ。足手まといになるからね」


「私だって・・・しばらく」


「大丈夫さ。君は、武器を取る。戦えるさ」


「どうして分かるの?」


「さあ、何故だろうね。でも、きっと身体が覚えてる。本能で戦おうとするだろう」


「え?」


霜惺がそんなことを言うとは思わなかったので少し拍子抜けした。


「―――さて、行こうか」


一つ頷いて舞姫も立ち上がる。


日差しを気にしながら山道を再び歩き出す。


現在、舞姫は霜惺と一緒に山の中をひたすら歩いている。


どこへ向かっているのか、舞姫には分からない。


ただ、促されるまま霜惺について山道を登って行く。


「霜惺はいつ式を従えたの?」


先程から気になっていたことを霜惺に問う。


少し考えてから霜惺は口を開いた。


「十・・・くらいかな。珍しい事ではないだろう?龍作だってそうじゃないか」


「私のまわりにはこんなのしかいないのかしら」


本気で首を傾げる舞姫に霜惺は苦笑する。


「酷い言われようだね。桜木の姫だってそうじゃないか」


「そう?」


「君みたいな姫、見たことないよ」






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