05

「―――今日からしばらくの間、舞姫様のお世話をさせていただきます、霜月、と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」


スッと綺麗に一礼すると、その霜月と名乗った女性が薄く微笑んだ。


どこにも不自然な点はない。


ないはずなのだが、その場にいる三人には、何処か納得がいかなかった。


・・・というよりは、違和感を覚えた。


「・・・霜月」


「はい、舞姫様」


「・・・・・・そう。なら、よろしく頼むわ。霜月」


舞姫がそう言うと霜月という女房は一礼して部屋を出て行った。


「・・・・・・・・・・・・・・どう思う?」


「どうって?何がですか?・・・あれはどう見てもよねの代わりでしょう?」


青風が面倒くさそうに吐き捨てる。


青風の横で舞姫も不機嫌そうに呟く。


「・・・・・・あの人、なんか変」


「・・・・・・何がどうってことは無いんだけどなー。そもそも直忠様も急すぎるというか速すぎないか?」


「まあ、そうですね。臨時といえど・・・こんな急に。それに・・・去り際に一度こっちを見たような気がする」


「どういうことだ、青風」


「わかりやすく言うとですね、俺に気付いてるんじゃないかってことですよ」


「いや・・・それは少し違うだろう」


「何がどう違うっていうんですか?」


青風が龍作につっかかるように言う。


皆が皆、苛立ってきている。


「―――お前は基本、この邸にいるときは妖気を抑えないだろう?」


「・・・・・・ええ、まあ。ちゃんと許可もらってますし・・・。でも、一応は抑えてますよ?」


「だから、あの女房にお前が見えてもおかしくはない。むしろそれが普通なんだ」


そこでようやく青風も気付いた。


「・・・・・・俺に何の違和感どころか不信感すら抱いてない・・・?恐怖すらも?」


「むしろ挑発しているんじゃないか?」


「ちょっと、二人とも!!仮にもうちの女房よ。あんまり疑わないでほしいわね。まだ敵とも決まってないんだし」


「でも、お前も違和感を抱いただろう?」


「・・・それは・・・そうなんだけどね・・・」


「・・・いくら俺が五年間都を離れていたとはいえ、噂くらいは残っているんだろう?なら・・・あの女房は怪しい」


「でも、いくら情報が少ないからって決め付けるのはよくないわ」


「・・・・・・それもそうだな。さて、そろそろ日も暮れてきたな。帰るぞ、青風」


そう言うと龍作は立ち上がって青風を促すが、青風は依然、まだ納得のいかない様子だ。


そんな青風を見て、舞姫が促す。


「今はまだ考えたってしょうがないわ。よねのことは、私から父様にも、霜月さんにも聞いてみるから」


「いや、あの女には必要以上に係わらない方がいい」


「青風・・・?」


「俺の直感だけどな・・・。なんか・・・懐かしいような、嫌な感じがする」


「そう・・・。なら、わかったわ。龍作も気をつけてね?」


壁に寄りかかって青風を待っていた龍作にそっと手を振って薄く微笑む。


だが、龍作は舞姫の眉が下がり気味なのを見逃さなかった。


「あんまし思いつめんなよ。ただの里帰りだ。そう思え」


「うん、ありがとう。龍作」









帰り際、通路で霜月とすれ違ったので、少し呼び止めてみた。


当然、背後には青風がいる。


「―――ちょっと、失礼」


「はい。何でしょう」


呼び止めると、彼女は作り笑いの様な表情の読めない笑みを浮かべた。


「お前は誰かの代わりで入ったのか?」


「ええ。先日、都へ来たばかりでして・・・。何処でお世話になろうかと迷っていました所、直忠様に声をかけていただきました。そうしたら・・・女房が一人里帰りをしているから戻ってくるまで娘の世話を頼む、と」


「・・・・・・そうか。呼び止めてすまなかった。もう仕事に戻っていいぞ」


「はい、失礼いたします。―――橘龍作殿」


去り際、龍作には彼女が妖艶に微笑んだように見えた。


なんとなく、しばらくその場に呆然と立ち尽くして動けなかった。


まるで誰かに暗示でもかけられたかの様に・・・。





夕日が照らしている。


それはいったい誰か・・・――――――。












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