07
一本の桜の木の前まで来ると、龍作は切り株に腰掛けた。
軽く膝を叩く。
「座って?」
「え゙・・・」
舞姫は思いっきり顔をひきつらせる。
「いいから」
断りたいのだが、その爽やかすぎる笑顔が恐い。
うん、すごく恐い。
しばらく渋っていると、無理矢理腕を引っ張られて座らせられた。
「むー・・・」
「すぐ終わるからさ、しばらくじっとしててくれよ」
「・・・・・・はい」
仕方なく舞姫は項垂れる。
龍作は懐から櫛を取り出すと、舞姫の髪を丁寧に梳いていく。
舞姫は思わず俯いた。
視界に水が入る。
目の前を流れる川だ。
水面に映る自分を見て思わず腹の中で笑った。
情けない。
ほんの一月といえど、自分は変わる事などできなかった。
「あのね、龍作・・・」
少し虚ろ気に舞姫は水面を見たまま龍作に話しかける。
龍作は少しだけ目を細めた。
「何だ?」
「―――・・・私、これで、いいのかな?」
一瞬、風が凪いだ。
「変わらなくちゃいけないのに・・・。結局また・・・父様に甘えてる。龍作にも・・・甘えてる」
弱いだけの自分は嫌だ。
誰かの足手まといになりたくない。
けれど、自分の本心を押し殺すのも嫌だ。
いつだって素直に、自分の思ったとおりに進みたい。
姫だって、女だって、私は戦いを拒まない。
むしろ、役に立てるなら、誰かを守れるなら剣をとりたい。
そう思うのに、世間の目は違う。
むかしからのしきたりを重んじるこの時代では窮屈だ。
「普通の姫は御簾の向こうでおとなしくしているんだってさ・・・。妖が来たら陰陽師を呼ぶの。本当はそれでいいのよね・・・」
「・・・・・・舞は、それでいいんだよ」
「え・・・?」
責めるでもなく、慰めるでもなく、龍作はただ淡々と言葉を告げていく。
「自分が思ったとおりに進めばいい。無理に変わろうとしなくていいんだ。ゆっくり、ゆっくりでいい・・・。それに・・・」
龍作は少し首をかしげて薄く笑った。
「・・・俺達の知ってる舞姫は少々おてんばで、我が儘で、自分でなんでもやってしまうようなやつだから。お前には、俺達がいるだろう?」
「龍作・・・」
「それとも、よねがいれば俺達はいらないって?」
「そ・・・そんな事ないわよっ!!」
勢い良く立ち上がって龍作に抗議しようと振り向けば、そこには薄く笑った龍作がいた。
「あんまり気にするなよ。・・・それと、はい、できた」
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