03
よねはしばらくその場で呆然としていた。
そしてはっと我に帰る。
「・・・そうでした。急がなければ・・・!!」
* * *
薄暗い室内で大量の文に目を通している時だった。
御簾の向こうに誰かがやってきた。
「・・・なんだい?」
「―――失礼します。よねにございます」
「ああ、よねか。入りなさい。その様子だと誰にも聞かれたくない様な話かい?」
「はい。すみません。まだ体調も万全ではない時に・・・」
「いいや、気にしないでくれ。みんな過保護なだけだから。あいつもいまだに床の中で少し困ってたよ」
彼が言うあいつとは自分の妻の事である。
「失礼いたします」
一礼するとよねはスッと御簾の中へと入ってきた。
「―――で、話は?」
彼はこの桜木邸の主、―――桜木直忠だ。
「無礼を承知でお願いがございます。―――しばらく、長の休暇をいただきたく・・・」
よねは深々と頭をさげて懇願した。
「・・・・・・理由を聞いてもいいだろうか?」
「はい。ですが、それは、こちらの文をお読みいただきたく・・・」
両手で差し出された文を開けて読み始めると、直忠の表情は次第に渋いものへと代わっていった。
よねは内心少しはらはらしならが直忠の返事を待った。
文を読み終えると、直忠はその文を丁寧に折りたたんでよねに返した。
「―――ふむ。・・・理由はわかった。しかしな・・・」
「いいえ、良いのです。こうなることはいつかわかっておりましたから・・・。ですが・・・」
よねはスッと直忠の目を見る。
その瞳には、決意と信念が刻まれている様な気がした。
「―――姫様達には、一切何も言わないでください。今はまだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
これにはさすがの直忠も直ぐには返答しなかった。
しばらく腕を組んで悩んでいた。
「・・・・・・どうか、お願いいたします」
「―――わかった。許可しよう」
軽く肩をすくめて直忠は頷いた。
どうやらよねの決意に根負けしたようだ。
「・・・だが、これだけは約束してくれ。―――必ず、帰って来い」
予想だにしなかった言葉なのか、よねは大きく目を見開いた。
そして・・・
「―――はい」
薄く微笑んだ。
どこか、切なさと、悲しさと、儚さを含んだ様なそんな目で・・・―――。
* * *
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