「先生、彼女いないんですか?」
体育教官室で豪快にカップラーメンをすする永倉先生に尋ねる。
他の先生は授業の準備に出ているのか、体育教官室には永倉先生しかいない。
「ん?なんだ藪から棒に。つかなんでいねぇこと前提なんだよ」
もぐもぐと咀嚼しながら、箸で指される。
「だって毎日カップラーメンか学食でしょ?」
まだ昼食は終わりそうにないので、空いている椅子を拝借し永倉先生の隣に腰掛けた。
永倉先生の机の上は赤ペンで印された競馬新聞が乱雑に乗って大半を占めている。
永倉先生は空いていた左手でバサバサと新聞を積み上げて、私の場所を作ってくれた。
「よく見てんな。まぁ、見ての通りだよ。つっても今はお前らの面倒みるのに手一杯だから当分はいらねぇな」
からからと豪快な笑い声が響く。
あぁ、好きだなぁと改めて思う。
ぶっきらぼうでがさつなんだけど、根は真面目で生徒思い。
現に用もなくここにいる私を追い返すわけでもなく付き合ってくれている。
「じゃあ、あの、、お弁当作ってきてもいいですか?!」
勇気を振り絞って伝えたかったことを口に出す。
案の定驚いた永倉先生が箸を止める。
「は?そりゃ有り難ぇけど、んなこと生徒に頼むわけには、」
「私、家でお弁当作る係なんです。いっつも作りすぎちゃって食べてくれる人がいたらすごく助かるんです!!」
断られるなんて百も承知。
"NO"と言う言葉を少しでも遅くするために、永倉先生の言葉を遮って続ける。
私の勢いに少し困ったように逡巡し、すぐに笑顔になる。
「んじゃ頼んでいいか?」
「はい、」
思いがけない承諾に考えるより先に零れた言葉に自分自身が驚いた。
しかし、ゆっくりと覚醒した脳で状況を理解し、こっそりガッツポーズをする。
「あ、あの、そんなに上手かもしれないけどいいですか…?」
料理が苦手なわけではないが、過剰な期待をされては困る。
…たぶん永倉先生はそんなこと気にしたりはしないだろうけど。
「新八は食いもんなら何でも食うだろ。なぁ?」
「お?いつからいたんだ?」
いるはずのない声に、振り返るとにこりと微笑みを称えた原田先生が立っていた。
突然の出現に狼狽えると、昼食を終えた永倉先生が原田先生がいるのが当たり前のように声をかけた。
「あと、甘い玉子焼きとか好きだよなぁ?」
でも原田先生は永倉先生の言葉には答えず、私の方を向いて意味ありげに微笑む。
(バ、バレてる…?!)
まるで見透かされているかのように居心地が悪い。
「ん?あぁ、好きだな」
何も知らない永倉先生は、そんな原田先生も狼狽えている私のことも気にするでもなく答える。
「つーことだから、明日っから新八のことは任せたぜ苗字ちゃん」
ぽん、と肩を叩かれると心臓が跳ね上がった。
(やっぱり全部分かってる…!!)
「あっ、あの、失礼します…ッ!」
堪らなくなって、逃げるようにその場を後にした。
教室の前まで走り、後ろを確認するが当たり前のように誰もいない。
はぁ、と大きく息を吐き呼吸を整える。
「永倉先生は玉子焼きは甘い派なんだ……」
なにげなく教えられた情報に頬が緩む。
たぶん原田先生は味方してくれようとしたんだ。
そうは思うものの恥ずかしくて当分顔を合わせられそうもない。
「とりあえず甘い玉子焼きの練習はしとこ」
声に出すと実感が湧いてきて、どんどんと熱が籠もる。
まずは、お弁当。
毎日少しずつ内側から私の愛を植え付けていくから、
覚悟しといてね?
「…青春だねぇ」
「あ?なにがだ?」
「お前はまだ知らなくていいよ」
SOUGO Thanks!
For KOTORI sama!!
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