月が眠りに落ちた。

そんなことを言ったらまた子供っぽいと笑われてしまうだろうか。





叶うことのない約束を交わそうか






「………あ」

ふわり。
掛けられた羽織に振り返ると左之さんがいた。

「こんな夜更け…っつうよりもう朝か。こんな早くから何してんだ」

すとんと左之さんが隣に腰かける。
ほんのりとお酒の匂いが鼻腔をくすぐる。

「なんか目ぇ醒めちゃって。せっかくだから朝焼けとか見てみようかな、って」

目が覚めてなんとなく出てきた縁側。
ぼんやりと月を眺めながら、しんみりと先のことを考えていた。
ぴんと張った空気の中、妙に頭が冴えてしまい、ついいらないことまで考えてしまう。

「あんま無理すっと体に障る――」

「風邪、だから。ね?」

心配げに告げられた言葉を遮るように告げる。
ほんの数秒。
困ったように微笑む左之さんの笑顔が痛い。

「ほとんど治りかけでね、咳もほとんどでないんだから」

わざと明るい声を出して、にこりと笑う。
…嘘は、ついてない。
今日はまだ咳のひとつも出てないもの。
左之さんはやっぱり困ったように微笑んで、くしゃくしゃと私の頭を撫でる。

「……名前がちゃんと朝焼け見れるように付き合ってやるよ」

頭に左之さんの体温を感じながら、ぎゅと羽織を握りしめる。
さっきまで着ていたものなのか、ほのかに温かくまるで抱きしめられているかのようだ。

「…左之さんが来るまでね、今年のお花見を思い出してたんだ。次は紅葉狩りしながらできたらいいなぁ、って」

辺りが静まり返っているため、小さな声でもよく通る。

「お花見の時は永倉さんが飲み過ぎちゃったから次は気をつけなきゃ」

一息で話すと、待っていたかのようにごほごほと咳が出る。
一度出始めると、大袈裟なくらい止まらないから嫌だ。
左之さんの温かい手が背中をさすってくれる。

「大丈、夫。もう、収まったから、」

それでもゆるゆるとさすってくれる手を諫める。

「なんともない、から。」

嫌だ。
こんな姿を見られるなんて。

なんとか止めようと、大きく咳払いをすると僅かに口の中に血の味が広がる。
尚も込み上げてくるものを無理矢理に抑え、深く深呼吸をする。
幸いに喀血は、ない。

「大丈夫か?やっぱ中で休んでたほうがいんじゃねぇのか?」

「ううん、本当はもうちょっと左之さんとこうしてたいんだ」

不思議なもので、先がないこと分かると素直になれる気がする。
無意味な意地を張って後悔なんてしている暇はないんだもの。

「だからね、左之さん。」

涙の枯れた顔に笑顔を乗せて。

「秋の紅葉狩り、楽しみにしてるから」

月が眠りに落ち、太陽が目を覚ますまでの僅かな時間。
誰にも見つからないように小指を絡ませた。




(神様、もう少しだけ)
(左之さんと過ごしたいだけなの)




遊々様提出





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