「左之、行こっ」

「名前、引っ張るなって」

今日は地元の小さな夏祭り。
いつもは教師と生徒だから名前を呼ぶことも手を繋ぐこともできない。
でも、今日は違う。
昔から毎年行ってる地元の小さな祭りなので、学園の生徒はいないし、知り合いがいたとしても私と左之の関係を知っている人ばかりだ。

「ねぇ、左之。綿菓子食べたい」

「名前は昔っから好きだよな」

くしゃりと頭を撫でてくれる左之の大きな手が好き。
はぐれないようにと繋いでくれる温かい左手も好き。
残念ながら恋人同士ではないけれど。
私は左之の"幼なじみ"で"妹"なのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
でも今はまだそれでいい。
手を繋いで祭りに来て、欲しいものを買ってくれて。
やってることは恋人同士みたいなもんでしょ?

「ねー、左之。川沿いに座って花火待と?」

小さなお祭りなので、すぐにお社にお参りもでき、屋台も一回りできてしまう。
人混みを避け、川沿いに腰掛ける。
川からの涼しい風が頬を撫でる。
人混みから離れるだけでも随分違う。

「つーか、そろそろ名前も祭りぐれぇ彼氏と来いよ」

缶ビールをくい、と煽りながら左之が笑う。

「へ?そ、それなら左之だって彼女と来ればいいじゃん」

彼氏なんて左之がいたらいらないもん。
そんなことを口に出すこともできず、ぶっきらぼうに答えてしまう。

「んなもん随分いねーよ。今はお前ぇらの世話で手一杯だ」

ぐしゃぐしゃと左之の大きな手が私の頭を撫で回す。

「ちょっと、頭崩れるからやめてよー」

嫌がる振りをしながらも、左之の彼女いない宣言に心が踊る。

「彼氏ができたらちゃんと紹介しろよ?」

やめてよ。
急に保護者面しないで。
嬉しかった気持ちが急速に萎んでいく。

「………いらないもん。彼氏なんて」

「え?」

ドン、と大きな音が響き渡り、大輪の花が夜空を彩る。
その大きな音で、私の声はかき消された。

「すっごーい!やっぱ近くで見たら綺麗だねー」

さっきの言葉なんてなかったように笑顔を作る。
左之も上機嫌な私に笑顔になる。
それでいいんだ。
だって、私は。




ただの幼なじみ、でしょ?
(でも、私はね)











「……なぁ、名前」

「ん?」

「や、んー…何でもねぇ」

「ちょっと言いかけて止めないでよ」

「悪ぃ悪ぃ。また時期がきたら、な?」

(卒業するまで待ってくれなんて)(どの口が言えんだよ)



Tierra様提出



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「見えない臓器の名前は」
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