ぱちん、ぱちん。
規則正しい音が鳴り響く。

「へぇ……、名前ちゃんって意外と器用なんだね」

見えないね、とでも続きそうな口調で沖田さんが笑う。
どこから現れたのか、いつの間にやら背後に立ち私の所作を覗き見ている。

「爪きりは、好きなんです」

下手に驚いたらこの人を喜ばせるだけだ。
よく知っているので、手元から視線を離さずに答える。

「へぇ、変わってるね。じゃあさ、僕のも切ってよ?」

「へ?」

ばちん。
大きな音を立てて最後に切っていた親指の爪が遥か彼方に飛んでいく。
幸い沖田さんには見えていなかったようで、にこにことした表情は変わらない。

「好きなんでしょ?爪きり。だったら僕のも切らせてあげるよ?」

むしろ感謝してほしいくらいだ、と言外に言いながら私の前に周り右手を差し出してくる。

「はぁ」

なんて強引で傲慢なんだ。
ちくりと思ってみたりするが、この笑顔で頼まれると断れないのはもはや彼の才能なんだろう。
そっと沖田さんの右手に手を伸ばす。

(大きな、手)

掌には大小様々な胼胝があり、少しごつごつしている。
見た目は優男で女の人よりよっぽど綺麗なのに。
やっぱり男の人なんだ。
この大きな温かい手が人を殺めている。

「できれば、」

ぱちん、ぱちん。
また規則正しい音が鳴り響く。

「え?」

ぴくり、と僅かに右手が反応する。

「京を……、人を護る手でいて下さい」

視線を手元に落としているので、沖田さんの表情は計り知れない。
少しだけ握っている右手に力が入ったような気がする。

「……当然、そのつもりだけど?」

いつもより随分と低い声が響く。
思わず顔をあげるが、いつもと変わらない顔でにこりと笑っている。

私が言うまでもなく、彼なりの方法で人々を護っている。
あまりに一途で、あまりに脆い。
だから、私はこの人から離れられないんだろうな。

また、何事もなかったように爪を切る。
本当はこの手を血で染めないで欲しいと願いながら。






(ついでだから名前ちゃんのことも護ってあげようか?)
(いえ、結構です)
(……前から思ってたけどさ、名前ちゃんって素直じゃないよね?)
(沖田さんには適いませんよ)



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