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発熱リーゼント(スラダン/水戸) [ 1/1 ]

夏が終わり、秋が知らないうちにすぐそこにきていて、そして気がついたときには冬で、今年も残りわずかとなっていた。




そして、私は風邪をひいた。




実は毎年この時期は風邪をひいている。だから私は今年こそ同じ過ちを繰り返さぬように葉っぱが黄色くなり始めた頃には
厚い毛布を既に用意していたし、パジャマもモコモコにしていたのに、だ。
今年もまさか同じ轍を踏む事となるとは…

熱は薬で一時的とはいえなんとか微熱まで押さえ込むことはできている。
しかし鼻水が止まらない。鼻水のせいで鼻呼吸ができず口呼吸となりマスクが呼吸のたびに忙しく動いている。
酸素不足のせいか薬が切れて熱が上がってきたせいか意識が朦朧としてきた。



「こちら温めますか?ごほっ……んん、」
「あ、おねがいします。」
「はい、畏まりました。ゴホ、ごふ、」
「…」


 私は現在、バイト中だ。
普段は事務をしているが、土日はコンビニでバイトをしている。
月に4,5回程度だが、土日に特にすることのない私にとってこのバイトは暇つぶしを兼ねたおこずかい稼ぎだ。
本業は普通のゆるい会社でこの時期、基本的に事務仕事しかない私には早い冬休みがやってくる。
気前のいい社長が「若いんだから年末は忙しいだろ!」と大量の休みをくれる。
更には少ないながらおこずかいという名のボーナスをくれたりする。
ありがたい、本当にありがたい話だが、年末に用事があるほど私の私生活は充実していない。

金はあっても友も彼もいないなんて辛すぎる。

そんな寂しさを紛らわせようと、私は時給アップの年末にシフトを入れまくった。

しかし、朝起きてみればこの状況で、流石に無理だと思った。熱が出て食欲もないし呼吸も苦しい。
こんな瀕死状態のが出社しても邪魔なだけだろうと店に休みの連絡をしようと冷蔵庫に貼ってあるシフトを見ると、
今日はなんとメンバーがギリギリしかいなかった。というか、絶望的に人数が足りていない。

なぜだ、なぜこんなに人がいないの。今日って…何の日だっけ
冷蔵庫に手をつき、熱で回らない頭でうねりながら考える。

年末、皆が休みたがる日。

12月24日…

今日はクリスマスイブだ。

「…ああ」

なるほど。

青ざめた店長の顔が脳裏に浮かぶ。
風邪なんかで休んでいられない。そう本能が言っていた。
私は一度持った受話器を元に戻し、薬箱をあさった。
私にも、こんなに社畜魂があったんだなと冷蔵庫からペットボトルを出しながら思った。



「…ごほ、ご、ゴホゴホゴホゴホゴホ!」
「え、ちょ、大丈夫っすか?」
「コホ、んん、…あ、ご、ごめん、ゴホ、だいじょうぶ、うん」
「いや、大丈夫じゃねーとおもい、」
「大丈夫!…だから、ゴホゴホ!ゴゲホ!」
「…無理は、って今の状態が無理か…」

隣のレジで目の前のカップル達の列を私と同時進行で消化している高校生バイトくんが
現状にうんざりしながら、同情の目で私を見ている。
目の前のカップルは脂汗をかきながらレジ打ちする私を見てドン引きだ。




「…終わった」
「そっすね」


夜勤のメンバーにバトンタッチし、私たちは控え室でぐったりとしていた。


「ゴホ、帰らなきゃ…」
「…もしよかったら送りますよ」
「え…いや、いい」


だって君、原付じゃない。
ヤンキーのくせして真面目にバイトしている彼は、水戸洋平くん。
一緒のシフトの時に必ず来店する彼の友人は例に漏れずかなりの不良だ。
中には赤い頭のでかい少年もまざってた。
バスケットマンです!と一度自己紹介されたことがあるが、絶対うそだと思った。
もし万が一本当だとしたら、バスケットってこわいスポーツなんだなと背筋に汗が流れた。
それからというものの自称バスケットマンの顔を直視出来なくなってしまった。
まぁ、とにかく、でかいのだったりちょび髭だったり金髪だったり丸いのだったり、最近の高校生はこわい。
私みたいな普通の一般人、しかも普通のOLが原付ノーヘル2けつなんて、出来るはずないじゃないか。


「今日は、原付じゃないんすよ。送りますよ。途中で倒れて死なれても目覚め悪いっすから」
「…死なないよ」
「いいから、はい、これ巻いて」
「え、ちょ」


ぐるぐるに巻かれた黒いマフラーは意外な程柔らかくて、気持ちよくて、タバコの臭いがした。


「…高校生はタバコ吸ったらダメなんだぜ」


そう照れ隠しにいうと、水戸くんはニカっと笑って

「善処します」

と私の背中を押した。










店を出るとき、水戸くんのマフラーを巻いている私と、私の背中を支える水戸くんを見て、入れ違いでシフトインしたバイト仲間に冷やかされた。
しかも今日はアレだ、クリスマスイブだ。違う!と否定するが、それが逆に怪しいと言われ、どうすりゃいいんだと困り果てているところ

「俺もそうしたいところなんですけど、残念ながら、はなこさんが風邪辛そうだから送るだけっすよ」

そう、さらりと言い流した水戸くんは無駄にかっこよく見えてしまった。
バイト仲間も、「そ、そう」と何だか恥ずかしげに店内に戻っていくのだった。
それでも高校生に言い負かされたのが悔しかったのか、いつもより早く出勤している夜勤の長谷川くん(大学生)が「送り狼になるなよ!」と恥ずかしい捨て台詞を吐いたので、私が無言で背中を思いっきり叩くと「いってぇ!」と涙目になりながらこちらを睨み返してきた。

「そんなはずな、」
「それは約束できないっす」

と、私の言葉を遮って水戸くんはまたはにかむのだった。

なんだ、このコミュニケーション能力。そして漂うプレイボーイ臭。
なんだ、最近の高校生はこんなに進んでるのか。
おねぇさんもうすでに人生経験値負けてそうな勢いなんですが?
いやはや、もうお手上げっす。


「…なんか、ごめんね。気を使わせちゃって」
「いや、俺が送るって言ったんで」

同じ時間にシフトインしただけだってのに、なんて律儀なやつなんだ。


「あ、降ってきやがった」
「え、」


彼は任侠ものの映画の主人公になれるんじゃないかと、いらぬ妄想をしていたら
ほっぺたになにか冷たい感覚があり、水戸くんが空を見上げているのを見て私も同じようにすると雪がはらはらと舞っていた。

「うわぁ…ホワイトクリスマス…ごほごほ」
「さみぃ」

なんてロマンチックなんだ。クリスマスイブに雪って。
どんだけ世の恋人たちを盛り上げるつもりなの。

っていうか、この意外にも横顔が綺麗なプレイボーイ(仮)は、彼女とかいるんじゃないのか。
こんな風邪っぴきのおばさんを見送ている場合じゃないんじゃ…


「ごほ、…あの、水戸くん」
「ん、なんすか」
「この辺でいいよ?」
「家、まだ先でしょ」
「うん、まぁそうなんだけど…今日イブじゃん」
「そうっすね」
「ほら、彼女とか」
「いないっすよ、んなもん」
「友達とか」
「ダチもバイトっすよ」
「…ご家族とか」
「生憎、一人暮らしっすから」
「そ、そう…」

なんか急に空気が重くなった気がする。
あれ、なんか怒ってるの?このプレイボーイ
髪型があれだし、ほんまもんのヤンキーだから眉間にシワが寄るとすごく怖いんですが。

何か地雷を踏んじゃったかな

何だか急に申し訳ない気持ちと隣のプレイボーイの不機嫌さに心が不安定になり
誤魔化すために「雪結構降ってるね」と頭に積もり始めた雪をはらった。

「…あー、はなこさん、」
「んー?」

私の名前知ってたんだ、とぼんやり返事をして前を見るともうマンションの前だった。

「あの、」
「あ、着いちゃったね」

私と彼が話始めるたのはほぼ同時で、目が合って一瞬時が止まってしまった。
それでも直ぐにどちらからともなく苦笑いが出て視線をマンションに移した。

「これ、荷物」

そう言って彼は私に荷物を返し、手持ち無沙汰になった手を首の後ろに持っていった。
んじゃ、と小さくぺこりとお辞儀をして私に背を向けた水戸くんの腕を思わず引いてしまう。
何となくこのまま別れてしまうのはつまらない…というか正直言ってしまえば寂しいという気持ちが芽生えてしまった。


「―え?」
「あー、あのさ」
「…はい」
「…えっと、風邪っぴきのおばさんのおウチに寄ってくかい?少年よ」


送ってもらったのだから、お礼をしてもバチが当たらないのではないかと勝手に自分に言い訳をする。


「あのケーキがホールであるし、お礼?っていうか…ああ、でも風邪ひいてるからな私、うちゅ、うつっちゃうかな?あ、無理はしないで。あくまでお礼だし、はは」
「…」

私は何故矢継ぎ早に言い訳をしているのだろう。
彼は呆気に取られたように切れ長の目を少しだけ見開いてた。

「あ、あの…水戸く、」

再び流れた静寂にまた気まずくなって、声をかけると彼はいきなり「ぶはっ」と吹き出し爆笑し始めた。
今度は私が呆気にとられる番だ。

「どうした」
「ぶっ…くは、いや、すいません、だって、っ、大事なとこで噛むから」
「あー、なるほど」

そこかよ、と何かめんどくさくなって、無駄に出してしまった勇気を返せと言いたいのぐっと我慢する。
全ては熱と雪のせいだ。普段の私ならこんなこと言わないし、彼も私を送ったりしないだろう。
冷静に考えたら、高校生を自宅に連れ込む大人って相当危ないんじゃない?
取り敢えず、さっきのは熱のせいにしてこの流れでお帰り願おう。それがいい。

今更だが噛んでしまった恥ずかしさが込み上げてきて、照れ隠しをしながらもういい帰れと言うとすいません、と眉を垂らして謝ってきたけど
爆笑したせいで溜まった涙を拭いながらまた吹き出しそうになってる。


「…笑いを提供できたようで光栄ですよ、はい、もういいでしょ。寒いから私帰る、」
「いや、ちょっと待って。俺誘いの返事してないし」
「あー、あれはちょっとした気の迷いだよ。クリスマスイブに雪なんか降ったから気分が最高潮に上がってしまったが故の事故のようなものです」
「ふーん」
「冷静に考えたら、高校生を家にあげるとか、犯罪じゃない?危ないところ気付かして頂きありがとうございます」
「へーはなこさんは俺を家にあげてイケナイコトしようとしてたんだ?」
「っは!?違うし!ひとりぼっちの少年にケーキを恵んであげようっていう私の優しさだし!」
「じゃあ、」


お言葉に甘えますね、といって私の手から再びケーキ(ホール)が入った袋を奪い取る。
さらにスタスタとマンションに向かって歩きだした彼に手を引かれて、転びそうになる始末。

「ちょ、ちょっと、」
「部屋、何号室ですか?ってオートロックか、いいとこ住んでますね」
「いや、あの、だから」
「早くしないと、また熱出ますよ」
「薬飲むし、寝るよ。子供じゃないんだから」
「俺割とセキニンカン強いんで、最後まで見なきゃ安心できないっす」
「いや、ヤンキーに言われても何の説得力ないし」
「いいじゃないっすか、寂しい少年にケーキ恵んでくださいよ」
「だからっ…あー、ケーキ食べたら帰れよ」
「はいはい」

コートのポケットから鍵をだし、鍵穴に差し込み回すとウィーンと音を立ててガラス張りの扉が開いた。









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水戸くんが好きすぎて、秋にクリスマスネタをアップするこの愚行
(そして、本番には何も上げないという無能っぷり)

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