なると | ナノ
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お母さんに無理やり渡された”里コン!”のチラシを本棚につっこんで
私は早々に縁側に将棋の準備をする。
相手はいない。一人でひたすら詰将棋だ。
始めたばかりの頃はお父さんが相手だったが、暫くするとお父さんは相手にならなくなってしまった。
娘に負けるなんて嫌すぎる!とか言って、もうお父さんは私と将棋をしてくれない。
かといって、私の少ない友人の中に将棋をするような子はいないので
仕方なく一人でやっているわけだ。
まぁ、一人でするのも嫌いではないからそれでもいいんだけど。


***


持ち込んだ麦茶を飲みながら黙々と駒を将棋盤に置くこと数時間、
誰か訪問者があったのかお母さんがよそゆきの声で話しているのが聞こえた。
私は特に気にするでもなく将棋を指し続けるが
それを邪魔するようにお母さんが私の名を呼んだ。

「ハナコー!」
「…んー」
「お客さんよ!」
「んー」
「まったくあの子は…!あ、どうぞどうぞ。汚いところだけど上がって頂戴」
「あ、すいません」
「こちらこそごめんね、忙しいのに」
「いや、そうでもないっすよ」

私の反応が良くなかったせいでお母さんのボルテージは上がってきた様子だったが
訪問者のおかげかそこまで怒っていないようだ。(様に感じるだけかもしれない)


パチン、と桂馬を指した時だった。ふすまをバン!と勢いよくあけたお母さんが
私の頭をペチンと叩いた。

「…ちょ、いった!なに!なんなの!?」
「なんなのじゃないわよ!お客さんって言ったでしょ!」
「だって、いいところだったから」
「また、アンタは!将棋しかしてないじゃない!だから彼氏ができないのよ!」
「いいじゃん!奥ゆかしいでしょ!」
「辞書引いてきなさい!馬鹿!」
「たまの休みなんだから、いいじゃない!」
「たまの休みに将棋してるうら若き女子がどこにいるの!」
「いるよ!ここに!あんたの娘だよ!」
「里コンの申し込みしたの?!」
「しないって!里コンにくるようなのはチャラいのか40手前の切羽詰ったおっさんだから!」

「…ぶっ」


「「あ…」」

「あははははっは…っすいませんっくくく」

すっかり忘れていた訪問者は私たちの言い争いを見て腹を抱えて笑っている。
これは、爆笑ってやつだな。なにこの子、随分楽しそうだな。


「あらやだ!ご、ごめんなさいね!お恥ずかしいところをみせちゃったわ」
「いや、いいっすよ。面白いもの見れたし」
「…」
「あ、お仕事の話だったわよね?私外すからどうぞゆっくりしてってね。お茶用意してくるから」
「あ、お構いなく。すぐ帰りますんで」



彼の存在をお母さんも忘れてたのか慌てて部屋から出て行った。
私のこと言えないよね。まあ、仕方ないか、親子だし。

冷たい視線を母に送り、客人に視線を戻す。


ん?あれ…この子見たことあるな、えーっと、「あ、」


「?」
「アスマさんの」

そうそう、アスマさんとこの班の…猪鹿蝶の…シカ!

「ああ。そうっす。アスマの」
「えーっと、猪鹿蝶の鹿…シカ、シカ、シカ…シカザル!」
「ぶっ、くはは」


あれ?違ったかな。動物っぽい名前だったと思ったけど。
確かアスマさんが生きていた時、何回か会ったことある気がする。
頭がすごくいいって言ってたな。
確かシカクさんの息子さん。

また笑い始めてしまった奈良家のご子息はヒーヒー言いながら柱にもたれて爆笑している。
よく笑う子だな。いや、いくらなんでも笑いのツボが広すぎるだろう。
最終的には目尻に涙を貯め息も絶え絶えに彼はこちらを見て咳払いを一つした。

「奈良、奈良シカマルっす」
「あ、タナカハナコです」
「知ってますよ」
「へえ、よくご存知で」

こんなマイナーな上忍を。



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