なると | ナノ
21 [ 22/26 ]

暫く激走して、商店街に逃げ込んだ。
ここなら追いかけてきても暴れることができないから安心だろう。


「はぁ、はぁ…怖かった…」
「…あれ、ハナコさん?」
「あ、佐々木くん!」


私が足を止めた所は”佐々木呉服店”だった。
特にここを目指してきたわけではないけど、着物を来て表を掃いていた佐々木くんの笑顔をみて少し安心する。

あの一件から彼とはマブダチだ(私の中で)
病院で不吉な言葉を投げかけられたような気がするけどきっと気のせいだと思う。


「ど、どうしたんですか。すごく疲れてますね」
「あ…いや、ちょっとした修羅場が、ね」

はは、とごまかして笑うと佐々木くんがお茶飲んでいってくださいと持っていた箒を片付けて私を家の中に招き入れた。

「なんか、いきなりごめんね、お邪魔します」
「いえ、むしろ来ていただいて嬉しいです。あ、母さん!ハナコさん来たから客間借りるよ!」
「…あら!ハナコさん!いらっしゃい。あ、丁度美味しい最中頂いたのよ、持って行くわね」
「え、あの!お気遣いなく」
「いえいえ、ハナコさんが遊びに来てくれるとこの子嬉しそうだから、私も何だかお嫁さんが来てくれたみたいでね、嬉しいの」
「およ、」
「ちょっと、母さん!」

お嫁さんって…
ごめんなさいと慌てて謝る佐々木くんに、大人のジョークだから気にすんなと慰める。

いや、本当、女性はああいう話好きなんだよ。


暫くすると、お茶菓子を持った佐々木母が部屋に入ってきた。


「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。すいません、急にお邪魔しちゃって」
「いえいえ」


にっこりと笑った佐々木母は、年齢の割にとても綺麗で、ほほ笑みかけられると少しドキドキする。
へへ、とよくわからない照れ方をした私をみて、佐々木くんもまた微笑む。
ああ、佐々木くんはお母さん似なんだなぁ、と頂いた最中を口に含んだ。


すると、佐々木母が何か思い出したように手を顔の前で小さくパチンと合わせると
少し待っててね、と部屋を出て行った。


「?どうしたんだろうね」
「さあ」

佐々木くんと二人で顔を見合わせ、また少し笑う。

ああ、平和だ。さっきの修羅場が嘘のようだ。
しかしなんだって不知火先輩もあんなにムキになってたんだろうか。
どうせ、よくわかんねぇけど後輩に邪魔されたのが気に食わんとかそういう理由だろうけど。

「そういえば、どうしたんですか?随分慌ててましたよね」
「あ、ああ…実は、斯く斯く然然…」

私が先程までの修羅場を説明すると、途端に笑いだした佐々木くん。
奈良さん必死すぎと言って、また爆笑していた。

「そうだよね、なんでシカマルあんなに必死だったんだろ」
「…え、まさか、ハナコさん、気付いてないんですか?」
「え?何が?」


私がそう聞き返すと、佐々木くんはまた吹き出してお腹を抱えて蹲ってしまった。
プルプルと震える佐々木くんが小さく「ざまあみろ、奈良シカマル」と言ったのはどうか空耳であってほしい。
佐々木くんが顔を真っ赤にして涙を流して笑うもんだから少し心配になってお茶を入れてあげると
襖の向こうで佐々木母が襖を開けて欲しいと声を掛けてきた。

「ありがとう、ハナコさん。この子ったら顔を真っ赤にしてどうしたの」
「あ、いえ、どうやら私が彼のツボにハマるような事を言ったようで」

まったく、と少し呆れながら佐々木母はおもむろに白い紙で包まれた物を私の前に差し出した。

「これは?」
「この間買っていただいた反物、覚えてるかしら?」
「ああ!もう出来たんですか?」


差し出されたそれを開くと、着物が丁寧にたたまれていた。


「うわあ、綺麗ですね」
「ハナコさんに、きっと似合いますよ」


私がきれいに仕上がった着物を手にすると、その後ろからすっかり元通りに戻った佐々木くんがにっこりと笑っていた。

「…でも、実は着付けできないんですよね…、母に頼んで着せてもらおうかな」
「あら、私でよければ着付けますよ、どう?今から着てみない?」
「え、でも、」
「いい反物買っていただいたのだから、色々おまけ付けるわ。しかもこの子のお嫁さん候補ですもの」
「いや、あの…」


張り切る佐々木母を見て、まだ仕事中と言い出すことはできなかった。







[*prev] [next#]

top
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -