なると | ナノ
18 [ 19/26 ]

コンコン、


「佐々木、くん、」
「…ハナコさん!」


ベッドの上に座る彼は、私の顔を見ると笑顔で会釈した。


「ハナコさん、今日で退院と聞きました。よかった、貴女が無事で」
「…うん、なんとかね。まだ検査はするらしいけど…っ」
「そうですか、あまり無理はしないでくださいね」


そう言って笑った彼があんまりにも綺麗に笑うから、私も下手くそに笑ってみせる。
そしたらシズネさんの言葉が脳内に流れて、頭が鈍器で殴られたようにガンガンと悲鳴を上げる。


「佐々木さん、一命を取留めはしたんですが…、毒が全身に回ってしまって」
「全、身に…」
「ええ、綱手様でも…それで、彼左手が」
「ッ!」





「ごめん、佐々木くん」


救えなかった事が悔しくて、そんな自分が不甲斐なくて、彼の布団を強く握る。
なんで、私は、あの時…

自分を無性に殴りたくなる。
結局私は自分のことしか考えてない、ずっと。
私は同じ空間にいながら、どこかで彼は無事だと勝手に思っていた。
そんなはずなかった、あの時私が彼の手を握ったとき、あんなに苦しい顔をしていたのに。


私は上司どころか、忍としても、人としても失格じゃないか。


「…っ」
「ハナコさん、」
「わ、私がもっとッ、ちゃんと見てれば…!」
「ハナコさん」
「ちゃんと、ちゃんと、ごめん、ごめ、」
「ハナコさん!」
「ッ」
「ハナコさん、こっち見てください。僕の目見てください、大丈夫ですから」


そういって彼は、強く握りすぎて色が変わった私の手に男性にしては綺麗な手を重ねた。
彼の手が私の手を包むと、その手が本当に暖かく感じて、無責任な私の涙腺を刺激した。
視界が歪むのを感じて、眼球に膜を張ったソレを取りこぼさないように強く目を瞑る。


「ハナコさん?どうかご自分を責めないでください、これは僕の責任です」
「ちがっ、私が、」
「違わないんです。…僕、実はあの花の異常性に気づいていたんです」
「…」



思わず瞑った目を開き佐々木くんを見ると、彼の眉間に皺が寄っていて、とても苦しそうにするから
大丈夫か心配になって、俯いた彼の顔を覗き込む。
彼は一つ深い深呼吸をした。



「、あの時貴女と一緒の班になれて、一緒に昼ごはんを食べて舞い上がっていたんです」
「どうにか、いいところを見せたくて、独断で行動した」
「本当は気づいた時点で貴女に報告するべきだったのに」


そう言って一度上半身をピンと伸ばした彼は、真剣な顔をして
もう一度私の目を見て、申し訳ありませんでした、と頭をさげた。


「な、佐々木くん、ちが、違うから、そんなこと、」


言わせたかったわけじゃないのに。


言葉にうまくできなくてふるふると首を横に振ると、佐々木くんはまた私を見て困った顔をして私を見た。


「ハナコさん、僕ね、元々向いてなかったんですよ、忍」
「そんなことないよ、だって、」


静かに首を振った彼は、静かにぽつりぽつりと話し始めた。


「いえ、親に反対されてたんです…それでも自分の意志でこの世界入ったんです。あ、僕の実家呉服屋なんですけどね」
「僕昔からひ弱で、そんな自分を変えたくて忍になったんです、当たり前のように親の後を継ぎたくなかった」
「でも、実際になってみたら現実は厳しくて、やっぱり向いてないなーって、やっぱり辞めて後を継ごうかな、ってそう思い悩んでいた時に、貴女に出会ったんです」
「貴女はいつだって凛としていて、凄く、かっこよかった、綺麗だった」
「そんな、貴女に憧れて、この世界で今までやってこれたんです、ハナコさん」


ありがとうございました、とまた頭をさげた。

「ちがう、ちがうちがう、そんなこと言って欲しいわけじゃないの、せっかく仲良くなれたのに、なのに、私が…!」
「僕は、忍びらしい仕事がしたかったわけじゃない。貴女と仕事がしたかったんです、貴女に近づきたかった。だから最後に貴女と働けて本当に嬉しかったです」


違う、笑わないでよ、そんなに綺麗に。


「さ、さきくん、なんで、なんで笑うんだよ、馬鹿、、なん、なんで、私なんか、すごく平凡だし、うっ、佐々木くんは、かっこいいよ、顔もいいし可愛いし私より女子力高いし私みたいに人見知りじゃないし」
「だから、それあんまり嬉しくないですって」

そう苦笑いをしながら、我慢しきれなくて流れてしまった私の涙を彼の右手が拭った。
そしたら、もう我慢はできなくて彼に思わず抱きついて声をあげて泣いてしまった。

「ちょ、ハナコさん、」
「ざざぎぐん、ごめんね、ほんとうにごめん、それからありがどうね、うえ、ひっ」
「ハナコさん、ってば」
「ほんどうにごべんね、わだじ、遊びに行くから!ごぶぐやざんいぐよ!きものかうから!あんまり着ないけど、」
「ふふ、ハナコさん、子供みたいですよ?ほらちょっと離れてください、」
「うう、だっで、」
「あんまり泣くようだったら、僕も男ですからね」


そういって彼は私の顎をその綺麗な手で持って
「襲っちゃいますよ?」といって笑った。


「!!?」
「はは、驚いてますね」
「おど、驚くっていうか、あのキャラ、ざざぎぐ、キャラ…っていうか、左手、」
「ああ、もう忍としては使い物になりませんが、通常の生活には支障はありません。僕って案外強かなんですよ、…猫かぶってでも貴女に近づきたかった」
「え、ちゃ、は!?ち、ちか」
「このまま、しちゃっても別に構わないんですけど、」
「ぇ、」
「後ろの彼が怖い顔で見てるので今日は辞めときます。残念ですけど」



そういって少し離れた私の肩に右手をポンと置いて


「でも、諦めるのは辞めます」


そう耳元で呟いた。





----------------------------


佐々木出張る

[*prev] [next#]

top
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -