なると | ナノ
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ああ、これは死んだ、かな。
忍びの命とは、実に儚い。お父さん、家にずっといるとか言ったのに、早々に先立つ親不孝を許してください。

なんだって里の近隣の森にあんな危ない植物が群生していたのか。
危ないだろ。一般人が誤って入るような森ではないけれど、それでも毒が風に乗ったらどうしてくれんの。

ああ、こんなことなら、この間無理やり参加させられたくノ一会の時に、もっと高い肉食べとくんだった。
割り勘とはいえ、女子の独特の雰囲気に気を使って一番高いやつ頼むの我慢したんだよね、馬鹿だったわ。
だって、いつもは寄ってこないような可愛らしい女子たちが何故か私を囲むんだもの、頼めるかっての。
何かのいじめかと本気で疑ったわ。はあ、後悔あとにたたず、ってか。
ああ、あと、任務終わったら食べようと思ってた、プリン…

っておい、割といい年の女子が死ぬ間際に食いもんの心配しかしてないってどうなの?
確かに私の人生、食べ物と将棋しか楽しみのない冴えないものだったけども…





…将棋、か








「…む、」


あれ、生きてる…?


白い天井、ピッピ、と規律良く流れる機械音。
なにこのドラマみたいなやつ。


横をちらりと見ると、お母さんと目が合って、
「目が覚めたの?先生呼んでくるわねっ」と、慌てて部屋を出て行った。
そして、剥きかけのリンゴがテーブルから落ちるのがみえて

「勿体無い」と、呟いたら、それは誰かの手によって救い出された。



「…シカマル、じゃん…調子、どう?」

酸素を送り出すマスクで私の声はくぐもっていて、どれくらいぶりに出したかわからないその声が届いかはわからないけど
リンゴの救世主はどこか泣きそうな顔で、眉間に皺をよせて、

「相変わらずっすね」と、不器用に笑った。








「暇」


目が覚めてから結構たったわけだけど、検査しなくてはいけないようで、なかなか退院させてもらえない。
お母さんに「将棋盤持ってきて」とお願いしたら、「重いから嫌」と即答された。


寝る、食べる(病院食)、起きる、たまに検査


これが、私の主なスケジュールだ。
息が詰まるような日々に、体が溶けていくような感覚に襲われる。
いつもなら渋々書く報告書でさえ、今までで一番詳しく、尚且つ一文字一文字丁寧に書いたが時間は余るばかりだった。

暇って残酷だわ…

「…やばい、これは」


手を天井に掲げ、ぐっぱぐっぱと開いたり閉じたりする。絶対体が鈍ってきてる。
復帰したときのことを考えると、先輩たちのニヤついた顔が頭に浮かび気が重くなった。
取り敢えずガイさんにだけは近づかないことにしようと心に決めた。


「点滴、終わりましたね」
「あー、そのようですね」
「今日で退院です」
「…え!ほんとですか?急ですね、随分」
「ええ、嘘をついてもいいことありませんから」
「よっしゃああ!」
「でもあまり無茶はしないでくださいね、それから通院も暫くして頂きますから」
「…はいはい」
「…ああ、あと、あの中忍の方、佐々木さんでしたっけ、彼ですけど、」



この時ほど自分の能天気さを呪ったことはない。



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