なると | ナノ
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「これ、俺にじゃないんすか?」

そう言って、ニッと笑う顔は実に楽しそうで
こいつはなかなかの曲者だとそう思わずにはいられなかった。

「シカマル…」
「待ってたのになかなか来ないから自分から来ちゃいましたよ、ハナコさん」
「え、待ち合わせとかしたっけ?ってか、なにそのキャラ」
「いや。でも俺、貰えるって期待してたのに」
「…ああ、えっと。うん?って、だからなんなのそのキャラ」


これは、嘘だとシカマルの顔を見ている私はわかったが
きっと佐々木くんはわからないだろうな。
出会って日が浅い私にもわかるシカマルはこんなキャラじゃない。
そもそも私はシカマルと約束なんかしてないし、チョコをあげるなんてこと知ってるのはカカシさんだけだ。
恐らくカカシさんがシカマルになんか言って私のところに行くようにいったんだろう。
きっと今のこの茶番も高みの見物で笑っているに違いない。
恐ろしく性格が歪んでるぜ!はたけカカシ!


「や、やっぱり…」
「え?」
「やっぱりお二人は付き合ってたんですね」
「「は?」」

…おい、ほら見ろ。
大変な誤解を招いちゃったじゃないか。


「いや、付き合ってない付き合ってない」


これはイカン、と慌てて訂正をする。


「僕に気を使わなくてもいいんです、タナカ上忍」
「え?」
「僕を傷つけない為の嘘ですよね。いいんです、っ…最近噂になってますからお二人は」
「」


既に盛大にめんどくさい状態になっている様だ。
佐々木君、キミって奴ァとことん乙女やな。妄想まで乙女とはもうお姉さんお手上げだよ!
てか、佐々木君泣き始めちゃったんだけど…。
うわぁ、流石にシカマルも引いてるし、てかカカシさんの悪ノリとお前のノリのよさがすべての原因だよ!
ぐぬぬぬ…

ただただ涙を流す乙女佐々木を目の前に立ちすくむ私たち。

埒があかないので、シカマルを連れて少し離れたところへ移動し、佐々木くんを背にしてシカマルの耳を引っ張る。
いて、とシカマルが小さく文句を言ったが、そのぐらい我慢してもらおう。
身長差もあるし、大きな声で話すのもはばかられる状況だし?
ってか、なによりお前”ら”のせいだって事を自覚にしてもらわなくちゃね!
お仕置きですよ、お仕置き。

「おいシカマル、どうすんのコレ」
「…すいません。めんどくせぇ事になっちゃったみたいで」
「ああ、うん、まぁ…どうせ首謀はカカシさんでしょ?」
「…ご想像にお任せします」
「君はこんな時にまであのクソ上忍をかばうのね」
「あとが怖いんすよ」
「世知辛いね」
「…ええ」
「カカシさんには後で嫌がらせしとくわ。…ごめんね、また巻き込んじゃった」
「え、いや、」
「帰っていいよ。あとは自分でどうにかするから。」


ため息に限りなく近い深呼吸をして、シカマルの手に飴玉を忍び込ませ
お疲れと少し丸くなった背中をポンと叩いて佐々木くんのところへ向かった。

佐々木くんに今日もうちの母が綺麗にアイロンしてくれたハンカチを渡す。
「すいません」と素直に受け取った彼の目は既に赤くなっていて罪悪感が私を襲った。
それでもさっきまで混乱していた頭はもう落ち着いていた。

ちゃんと向き合わなきゃいけない。


「本当に、ごめんね」
「…いえ」
「えーっと、シカマルとは本当に付き合ってないんだ」
「…」
「信じるか信じないかは君次第だけど、でもこれは本当」
「…」
「でもね、佐々木くんとは、ごめん、…付き合えないや」
「はい…」
「すごく申し訳ないんだけど私、君のこと殆ど知らないし、気持ちは本当嬉しいんだけど」
「…」
「それから好きな人が、いるんだよね。あ、シカマルじゃなくてね。さっきのチョコは義理チョコだから」
「…」
「もう叶わないんだけど、諦められなくてさ」


だから、ごめん。


彼も忍だから私の恋が叶わない理由をわかったのか
また悲しそうな顔をして「ありがとうございました」と言った。
私がその意味を汲めずにいると、佐々木くんは少し笑った。

「話してくれてありがとうございます。」
「あ、いや、むしろこんな話聞かせちゃって」
「嬉しかったです。真剣に僕の話を聞いてくれた事が」
「…ごめんね」
「いえ、あ、あとこのハンカチ」
「ああ、あげるよ。って言っても女物か」
「そうですね、これは洗ってお返しします」
「うん、まぁいつでもいいし、佐々木君に任せるよ」
「はい」
「あ、佐々木くん手出して」
「?」


不思議そうに私に向けて手を出した佐々木くんの男の子にしては綺麗な手に水色の袋に入った飴玉を乗せる。

「これ、チョコじゃないけど。」
「くれるんですか?」
「うん。」
「…ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」

最後に握手をして、その場を去る。
辺りは暗くなり始めていた。慣れないことをしたせいか脳みそをよく使った。
ぐぅと胃が情けない音を出し、夕飯の催促をする。

ああ今日の夕飯は何かな、と最後の一個になったポケットの飴を口に入れ、家路を急いだ。



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