短編(ハンター) | ナノ
エイプリルフール [ 3/4 ]


「やあ、ハナコじゃないか」
「どうも」
「偶然だね。ランチかい?ボクも一緒にいいかな」
「…」


有無を言わさず私の対面に座る自称奇術師は
いつもの道化の格好ではなくそこらへんに居そうな爽やかな青年のような身なりをしている。
といってもそこそこ美形で180センチは超えているであろう長身に無駄にいい身体をしているせいか
周囲の好奇の視線は注がれていて、話しかけられた私としてはとても迷惑だ。


「今日は、仕事は休みなのかい?」
「ええ、まぁ」
「へぇ、珍しいね。キミはいつも忙しく動き回ってるイメージだったよ」
「そうですか」


え、あれ彼女?まさか

なんてどこぞのテンプレの様な声があちらこちらから聞こえてきて
ああ、休日のランチにめんどくさいものに見つかったなと心の中で毒づく。


「今更ですけど」
「ん?なんだい?」
「見ての通り食事は終わったので私は帰りますけど、アナタはどうぞゆっくりしていってください。じゃあ」

そういって席を立とうとしたら、伝票を持った手を取られてニンマリと笑う人物に
「やっぱりか」と呟いて、おとなしく椅子に座り直し、店員にコーヒーのおかわりを頼んだ。

「で?なんの御用ですか?」
「仕事を頼もうと思ったんだけど」
「ああ、じゃあいつものようにメールでご依頼お待ちしております」


あくまで私はここを立ち去りたいのだというアピールを忘れずに事務的に伝えると
「相変わらずだね、キミは」なんて嬉しそうに笑う。

そこの私を恨めしそうに見ているお嬢さん方に見せてやりたい。
こいつが今どんな顔で笑っているのか。


「はあ」
「おや?ため息はよくないよ。幸せが逃げる」
「もう逃げてますけど」
「ククク、そう言うなよ。たまにはボクに付き合ってくれてもいいじゃないか」
「お友達とか美味しそうな果実と遊んでくればいいじゃないですか」
「今日はキミといた方が面白い気がしてね。勘だよ」
「実に迷惑な勘ですね」


コーヒーのブラックに飽きてきたのでミルクを入れてスプーンをクルクルと回す。

カップの中の渦を見ながら今日の予定は全てキャンセルになった事に心が沈んだ。

「そういえば、団長と殺り合うの諦めたんだ」
「…へぇ」
「驚かないのかい?」
「薄っぺらな、嘘でしょ?」

クロロと闘うためだけに、私から情報を買いわざわざ4番を殺して幻影旅団に忍び込んだのに
諦めるはずがない。ここまで積み上げてきたものをそのままにして去るなんてことは絶対にしないはずだ、この男は。
何が何でも自分で壊しに来るはずだ。

「キミは意外にボクに興味があるのかな」
「あくまで仕事相手として、ですけどね」
「なんだ、残念」

普段メールでやりとりをしているせいか、ヒソカの語尾に記号が付いているような感覚に陥る。
彼とのメールは控えたほうが良さそうだ。

「ご期待に添えなくて申し訳ないです」
「他人行儀すぎないかい?」
「そうですか?お仕事でのお付き合いなのでこれくらいが普通かと」
「…じゃあ少しボクの相談に乗ってみてよ」
「え…まぁいいですけど」


やだメンドくさい。これが本音だがしかし今ココから去ることが難しいのであれば聞くしかないだろう。
それに、この男の”悩み”というのにも少し興味がある。
まぁ、それも嘘の可能性が高い訳だが。


「なんですか?」
「嬉しいね、興味持ってくれたのかい?」
「…もういいや」
「嘘だよ嘘。ボク実は興味がある女性が出来たんだ」
「…それは、果実的な意味で?」
「いや、男女的な意味で」

これには流石に驚いた。
まさかこの男から色恋の話を聞くとは思わなかった。
しかも相談。相当悩んでいるのか、ヒソカは持っていたフォークを置き
悩ましげに溜息を吐いた。

「強い女性なんですか?」
「強いには強いけど果実や戦闘相手として見ているわけではないから」
「へぇ。じゃあ何処が?」
「気が強いところ、気まぐれなところ、ボクに対して冷たいところかな」
「結構いるんじゃないですか。そういう女性」
「そんなことはないよ。ボク顔はいいし」

自分で言ってしまうあたりやっぱり彼はどこか外れてる。

そんなことを話しているとウェイトレスが頼んでいたケーキを持ってきてテーブルに置きヒソカの顔を見て少し顔を赤らめた。
そして少しぼうっとしてから仕事中ということを思い出したのか慌てて裏へと下がっていく。

するとショートケーキの苺をブスリとフォークで刺したヒソカが
「ね?」とその苺を私の口の前まで持ってきたので、
私もがぶりとその苺を口に含んだ。

「確かに、顔だけはいいですからね」
「性格もなかなかスリリングでいいと自分では思うんだけど」
「ナルシストはモテもせんよ」
「そうかい?まぁキミは嫌いそうだよね」
「ええ、好きじゃないですね」

もぐもぐとまるごと口の中に入った苺を咀嚼した時に
ふと浮かんだ顔があった。


「あ」
「?」
「相手、マチさん?」
「残念、違うよ」
「なんだ。…じゃあ誰だろう」


相談に乗るはずが、この変態の心を射止めたかわいそうな人を当てる方向に
シストチェンジしてしまっているのに気付いたが気にせずに当てることに集中した。
そもそもこの男の相談に的確な返事をできるほど私は恋愛経験豊富ではないのだ。


「団員ではないよ」


ヒソカも探られるのが嫌ではないのかヒントを出したりして好きな人当てクイズが始まったのだった。




暫く共通の知人の名前を出してはみたが全く当たる気配がない。
もしかしたらもう答えは出ていてそれをごまかしている可能性もあるがそうであっても
私は正解を知ることはできない。
もし違うのであれば赤の他人だ。どちらにしても当てるのは難しい。

「なんて不毛なクイズ」
「キミが始めたんだろう?」
「そうですけど…」

なんて無駄なことをしているんだと気づいた時にはカップの中身は空っぽになっていた。
休みだというのに頭を使ってしまい何だか損した気分になってきたので
早く帰ろうとクイズはやめて悩みの内容を聞くことにした。


「そういえば、悩みっていうのは」
「ああ、その子どうも鈍感でね」
「ふうん」
「ボクがアピールしても気づいてくれないんだよね。どうしたらいい?」
「えーっと…アピールってどうしてるんですか?」
「メール送ったり電話したり、たまに食事もするけど」
「意外に普通のアピールですね」
「ボクも人の子だからね」
「じゃあ、いっそのことホテルとか連れ込んじゃえばいいんじゃないですか」
「…キミ案外大胆だね」
「いや、その方がヒソカさんっぽいでしょ?それに強引な方がいいって子もいますし」


めんどくさくなって適当に答えたなんて言えない。
正直もう帰りたい。帰ってゲームがしたい。


「そうか。じゃあ強引にいってみようかな」
「ええ、それがいい…なんですか?」

これで解放されるゲームができると思った時だった。
何故かヒソカは私の腕を掴んで行こうか、と伝票を持ったのだ。

「キミの言うとおりにしてみようかと思って」
「ん?ああ、帰ってその子に会うんですね。あ、いいですよ、ここは私が出しますから早くその子のところへ」
「うん。だから一緒に行こうよ。ホテルに」
「…ん?私が?」
「そう、ハナコが」
「誰と?」
「ボクと」

そういったヒソカは至極嬉しそうにそして狂気的に笑った。

(え?え?)
(どこがいい?ボクは外でもいいけど)
(あ!そうか!今日は4月1日!)
(嘘じゃないよ)
(嘘だといって!)


――――

エイプリルフールということで
嘘にちなんだ嘘つきさんの本音のお話を。

嘘つきな人は4月1日には逆に本当のことを言うのです。


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