ハンター | ナノ
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タイミングよく今日はシルバさんもゼノさんも家にいた。
忙しいこの人たちが家にいるなんてそうそうないので、今日話してしまおうとシルバさんに声をかけると
話を聞いていたのかなんだわしもか、とゼノさんがちょっとめんどくさそうにしながらこちらをチラリとみた。
それでもちゃんと来てくれるあたり優しいおじいちゃんだ。


話す場所として選ばれたのは何故かシルバさんの部屋で
今日もシルバさんの横にはムキムキな犬がいる。
あれは本当に犬なのか。犬じゃなかったらあれはなんなのかという話になってしまうけど。
1年以上ここに住んでいたが慣れることはなかった。
そして彼も私に慣れる事がなかったようで、私の顔をみると相変わらずグルルと唸ってヨダレを垂らすのだ。
正直、怖いので早く部屋を出ていきたいところだが
せっかく忙しい時間を割いてくれてるのだから我慢しよう。
怖くない怖くない怖くない。

横から熱い視線を感じながらも
今回の仕事について説明し、ここを出ていくつもりなのだと話をすると
シルバさんは、ふむと腕を組んでこちらを見た。


「そうか」
「すいません、急に。とっても良くして頂いたのに」
「…いや、よくやってくれた。お前の仕事には満足している」
「ふむ、茶飲み仲間が居なくなってしまうな」
「ゼノさん…また遊びに来たら一緒にお茶してくれますか?」
「勿論じゃ」


背中を丸めたゼノさんがニヤリと笑った。
この家は家業が物騒なくせして妙な暖かさがあって困る。


これからのことを一通り話しをして部屋を出ると壁に寄りかかるイルミさんがいて
「や。」といつものように無表情で挨拶をした。


「イルミさん、」
「出てくの?」
「出てく…っていうか、職場が変わるというか…」
「ああ、そうか。ハナコ元は別の所に住んでたんだっけ」
「お忘れかもしれませんが、実はそうなんです」
「ふーん。」
「…お世話に、なりました。」
「うん。まぁまた必要なら連絡する」
「はい。殺人以外なら何かお手伝いできるかもしれませんし、殺人以外は。」
「荷物は?あの部屋特に使ってないから置いといてもいいけど」
「それなんですが、シルバさん達にもそう言っていただいて…私自身が持ち込んだものはそんなに無いので必要でないものは処分するつもりですけど」
「けど?」
「植物が…」
「ああ、なんか最初の頃よりでかくなってたよね、温室」
「はい、そうなんです。あれ、どうしましょう」
「うーん、そのままでいいんじゃない?」
「…そのままだといつか枯れて腐りますよ?」
「じゃあ、執事に見させるよ。たまになら俺がみてもいい」
「え、」
「何」
「…イルミさんが水遣り…いや、まぁ似合うかも…くっ、ぶはっくく」
「何笑ってるの。死にたい?」
「いや、ごめ…ぶっ、…ごめんなさい。鋲はほんとにやめてください痛いから」
「痛いからやるんだけど」
「はいすいませんでした…まぁ、面倒になったら処分していただいて結構ですから」
「でも、もし戻ってきた時に困るでしょハナコが。」
「え…。えっと…うん、ありがとうございます。」


私の為に席をとっといてくれるという。
稼業の為には心をも殺すのに、赤の他人の私の場所を。
狡いな、そういうの狡いよ。


至って平和に。
この世界がどの様に進むのか、少しだけ知っている私は彼らの未来を憂う。でもそれは必要のないことだろう。
彼らには彼らの問題があり、それを乗り越えることが人生というものなんだ、きっと。
深いが故に歪んでしまった愛情で傷つけ合う彼らをどうすることも出来ない。
それは彼らにしか解決出来ない問題だ。
出来れば今この私たちの会話のように昼下がりのティータイムのような平和な展開を望むが
そんなことは無理であって、この平和もどこかで起きている危険の上に成り立っている。
それでも私というちっぽけな存在がこの世界に少しだけ平和に出来たらいいのにと
平和な世界で育った私は願う。

私が出会った彼らが私の知っている未来より少しだけ幸せでありますようにと。

――――

ゼノさんはかっこいい。
っていうか会話長いね、しかし。





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