ハンター | ナノ
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私は毎日業務に追われている。
日替わりで暗殺一家の為に毒のストックやらサプリやらを作り
空いた時間には子守と字面だけ平和な気を抜いたら死ぬような戦闘を強いられたり
着せ替え人形になってみたりとなかなか忙しい毎日を送っている。
もしかしたら、前の世界よりも忙しいかもしれない。
多忙なゾルディック家の皆様に比べたら平和な休日のような毎日でも
私からしたら十分過ぎるほど忙しく、そして日々命の危機と向かい合わなくてはいけないストレス万点な職場だ。
それでも、なぜだか毎日は充実している。
私も随分この世界に毒されたものだ。



「ハナコ?入るぜ」


私が了承する前に入ってくる銀髪が眩しいこの少年、言わずもがなゾルディック家期待のご子息です。
流石、兄弟そっくりです。プライバシーなんて、うまいのそれ状態。
キルアくんは部屋に入るなり今暇?暇だろ?これ一緒にやろうぜ、
と新作のゲームを持って部屋に備え付けてある巨大なテレビの前に座った。


「今日は何のゲーム?」
「格ゲー。ハナコ下手だけど相手いないよりはマシだからな」
「…なんで一緒にやりたかったって言えないの」

素直じゃないな、とググっと伸びをして座りっぱなしで固まった筋肉をほぐし
キルアくんの横に座ると、うるせーなぁと赤くなった耳が見える。

あー、可愛い。素直じゃないところが可愛いよ。
ニマニマしちゃうのは仕方ないでしょ。


「仕方ないなー、お姉さんがお相手差し上げるわよ」
「なんか寒気するからその目やめろよ」


そんな冷めた目も慣れてきた今日この頃です。



数時間後キルアくんが言う通り格闘ゲームが苦手な私はボコボコにされ
大人気もなく不機嫌になり今日はもう疲れたと試合を放棄、またかよ、という文句は聞こえない。
都合よくできてるんだよ大人は。よーく覚えておきなさい。
だがしかし、取引先の大事なご子息が相手だということを忘れない私は
最近街に行った時に補充したお茶のお供BOXから出したケーキを取り分け
紅茶(毒なし)を提供し、彼のご機嫌取りをするのだった。




「でさー、ちょっと抜き取る時に時間がかかったからってその日の拷問の時間倍にするんだぜ?しかも秒単位じゃなくてコンマだぞ!?まじで鬼だよなー兄貴。できるかってのそんなの。なぁ?」


血なまぐさい愚痴を聞きながら食べる巷で有名なバターケーキ。
…嗚呼、美味しいな。
軽く現実逃避気味になっていると、ハナコ聞いてる?と猫目がこちらを伺う。


「…聞いてるよ。まぁ私は一般人だからこのおうちの基準はよくわからないけど
それでも、キルアくんはよくやってると思うよ?一日のほとんどは訓練だし
仕事もそつなくこなしちゃうし、私は大人だから仕方なく働いてるけど
私がキルアくんならそんなに頑張れない。すごいよ、キルアくんは」


別にすごくねー、と俯く顔はやっぱりピンクがかってて
思わず頭をなでると猫のように威嚇する。
可愛いなぁ…こんな弟いたら弟に貢ぐためだけに私働くのに。
子供扱いするなと私の手を払う姿まで微笑ましい。
孫を可愛がる気持ちわかっちゃうなー、私が親ならこんな甘やかせないけど
自分が育てるわけじゃないから全部可愛く見えちゃうもんね。
そんな事を考えてにやける私をキルアくんはちらりと見て、そして少し表情を暗くした。


「…どうしたの?」
「ハナコは…やっぱり俺の事、怖いと思うのか」
「え、どうして?」
「だって俺、人殺すし」
「うん」
「…怖くないの?」
「えーっと、そうだなぁ。これはすごく難しいんだけどきっとキルアくんに殺されそうになったら怖いと思うし他人であってもその場面を見てしまったらその時は怖いと思うの」
「…やっぱり」
「でも、でもね?キルアくん。」
「なに」
「私が怖いのは人を殺すという行為のことで、怖いのはキルアくん自身じゃない。
キルアくん含めて強い人に対しての恐怖っていうのはあるんだけどそれはきっと本能的な部分での話で、私は誰かを殺したいとかそういう気持ちのが怖いなぁ。
…私自身毒をつくるでしょ?その毒が殺人に使われることだってある。
それは誰かの薬に使われることもあるだろうし誰かを殺す為に使われるかもしれない。
後者のが確実に多いことを私は知ってるけど、私は道具を提供するだけ。あとは使う人次第だよ。あくまで私は毒を殺人の為に作ってるわけじゃない。仕事だから、って割り切れちゃうの。私はずるいからさ、傷つかない方法を知ってる。でも、まぁキルアくんちの稼業はなかなかダイレクトだから割り切るのは難しいよね。」
「…よく、わっかんねぇ」
「うん、私もよくわからない。」
「なんだよ、それ」
「さっきも言ったでしょ?すごく難しい問題なんだよ。割り切りたくても割り切れないし割り切りたくないのに割り切れちゃうの。人間ってめんどくさいね」


そこまで言い終えると、お互いのカップが空になっていることに気づいて
新しく紅茶を注ぐ。

「でも、一つだけわかってることがあるよ」
「え?」
「私は、キルアくんのこと好きだよ」
「…っ」

幼いながらに聡明な彼はこれが恋愛感情のソレではないと気づいているだろうけど
正直どっちに取られようが構わない。

「変な奴」

そういって照れながらも笑う姿がみれたら取り敢えず満足。

(よし!ゲーム続きしよっか!)
(そのゲームハナコ弱すぎて話になんねーから、もういいわ)
(…)


―――――

キルアと遊ぶ。

補足※念をまだ知らないキルアは、ハナコさんが何かを調合して科学的に毒を作ってると思っています。


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