ハンター | ナノ
20.5 [ 22/60 ]

2時間経過…



あの、これ終わりがあるのですか…。
営業スマイルも結構限界で引きつってるのが自分でわかる。
トイレにも行きたいし、ヘルプの意味合いで執事を見れば
「負けないで!」という無言のエール(視線)が返ってくるし…。

これは、きつい。


「…あ、あの奥様?」


――コンコン
私が勇気を出して今日は終わりにしませんかと提案しようと思ったところだった。
ノックの音に部屋にいる全員の視線がドアに集中した。




「入るよ」

誰も返事をしない中、イルミさんが部屋に入ってきた。


うおお!!!ここに来て救世主!ありがとう!ほんとうに!
スっと現れたイルミさんの背中に思わず涙ぐむ。


「イルミちょうどいいとこに来たわ!どう!?このお洋服!ハナコさんにピッタリ、」
「うん。ちょっと仕事の事でハナコ借りたいんだけどいい?」


うわ…イルミさんのスルースキル半端ない。あのキキョウさんの話ぶった切ったよ。
親子だからなのか、イルミさんだからなのか。


「まあ!ええ、勿論よ!二人の邪魔はできないわ!ハナコさん、このお洋服は全てクローゼットに入れておくようにするから好きな時に着てちょうだいね!」


あれ全部クローゼットに?私が持ち込んだ服はどこに追いやられるんだろう…

「…はい。ありがとうございます、奥様」

私が営業スマイルで言い終わると、キキョウさんは満足げに扇でパタパタさせて
イルミさんに何か耳打ちをしてから部屋を後にした。
っていうか…仕事の邪魔なら分かるけど、二人の邪魔って…なんなの。
敢えて言及しませんけど。


「…ふう。」
「お疲れ。随分長かったね」
「いや、だってなかなか断れなくて」
「嘘でもいいから何かしら理由つけて終わりにしなきゃずっとやってるよ、母さん」
「…はい、正直舐めてました。あ、そうだ。先にお手洗い行ってもいいですか?」



ずっと我慢してたんで、というとイルミさんは無言でソファに腰掛けた。

しかし、長かった…。最終的にはフルメイクに髪まで上げられて
私これからどこ行くの状態だわ…いや、可愛いけど可愛いけどさ。年齢的に…。
手を洗い鏡に映った自分の顔を見る。
私はこの世界に来てからあまり歳を取らなくなった。
なんか言い方はおかしいけど、爪が伸びる速度が遅かったり髪が伸びるのが遅かったり
伸びないわけではないんだけど、ものすごく遅い。だからか5年たった今私は30歳前後のはずなのに、こちらにきた頃とあまり変わらない。
いや、むしろ元の世界の頃より若くなっている気さえする。気のせいだと思うけど。

自分の実年齢を思い出し違和感のある顔面に「気持ち悪い」とどこぞのアスカさんの様なセリフを呟き手をタオルで拭く。

まぁ、5年じゃそんなに変わらないか…


「体調悪いの?」
「そういうわけじゃないんですけど…って、ええ!イ、イルミさん!?…ええ!?」
「うん、長いから死んでるのか思って」
「いや、トイレで死ぬとかそうそうありませんよ!な、なんでトイレ入ってきちゃうんですか!え、トイレ行きたかったとか!?」
「別に。」
「わかりました!すいませんご心配お掛けして!」


もう嫌!この人!…良かった、用を足したあとで本当に良かった!
あまりにも普通に入ってくるものだから私がもしかしたら普通じゃないのかもしれないなんて思ってしまう。いやしかし、ここはゾルディック家常識が常識ではない空間。
暫く暮らすんだんから私もなれなくてはいけない、うん、そうだ。
…頑張れ私!


「…そ、そういえば仕事の話でしたよね」
「うん。」
「どうしましたか?」
「あのハナコが作ったアレ、サプリだっけ。すごくいいって爺ちゃんと親父が褒めてたよ」
「え!本当ですか!よかったぁ…今回のは言われていたものとは違うんですが体力回復というか元気になる成分があるのでお疲れの皆様にはちょうど良かったのかもしれません」
「うん、大量に作ってくれって言ってた。」
「…た、大量…そうですね、1日に作れる量は限られるのでできるだけ頑張ります…」
「うん、頼むよ」
「あ、あと…薬っぽいものなんですけど、もう少し待ってもらってもいいですか?」
「構わないけど」
「すいません…ちょっと勉強不足でもっと薬草とかの勉強しなくちゃ皆さんに効くものが出来そうもなくて」
「ああ、それオマケみたいなものだから気長にやってくれて構わないよ。最悪できなくてもいいし」
「え、そうなんですか?」
「実際、毒の耐性が一番仕事に影響してくるから。」
「なるほど」
「それにハナコの毒をスープにするとチビ達には食べやすいみたいだし。俺らには物足りない時あるけど」


そ、そうですか。と無難な返事をする。毒が物足りないって舌どうにかなってるんじゃないの?

一度毒入りのご飯食べさせてもらったけど、死ぬかと思ったね!いやまじで。
毒が作れるようになったからって耐性があるわけじゃないのは以前痛い目を見てわかってるはずなのになんて馬鹿なことしたんだろうと、今は反省しています。
いや私の事はどうでもいいんだけど、毒が足りないって感覚は舌のしびれがイマイチとか、腹の下り方が甘いとか?そういう事?それってむっちゃドMですよね。
ゾルディック家って年齢を重ねれば重ねるほどM体質になっていくんじゃないの、これ。
うわぁ、いらない発見しちゃったよ…うわぁ…


微妙な思考を巡らせてしまったせいで、イルミさん(含めゾルディック家全体)を見る目が変わってしまい部屋に気まづい空気が流れる(様に感じているのは私だけだけど)。
まあ、私は仕事できているんだしそこは割り切らないといけない。大人だし。


「…えっと、そろそろお夕飯の時間ですね。」
「うん。お腹すいたの?」
「あー…まぁまぁそれなりに?」
「ふうん。…あ、そうだ」
「ん?」
「さっき母さんが今日はハナコと二人で食べてこいって言ってたっけ」
「え?私たちだけですか?」
「なにがいい?俺今日はこってりって気分なんだけど」
「…」


どうしてだろう、会話のキャッチボールってこんなに孤独だっけ?
っていうかキキョウさん…何を言ってるんですか。
嫌な予感が的中してしまった訳ですが…
特に家業と家族の事以外に大して興味ないイルミさんにそんな提案したら
じゃあいこっか、別に興味ないけど。ってなるに決まってるじゃないですか。
おかしい!おかしいよ、なんかやっぱり嵌められてる気がするんだ。私、知らないうちにファミリーネームがゾルディックになってる可能性否定できない気がする。
自分の命可愛さに脅されたら了承してしまう気がする!

一般人より強いしすぐに死ななそうだとか、息子が珍しく心を開いているとかそういう理由で息子の嫁を選びそうだしこの家族。
…ああ、言ったら認めるような気がして今まで言わないでおいたけど言ってしまった…心の中とはいえ。

はあ、当の本人は、ディナーに夢中だけどどうするの。
もう飛行船用意するように執事に言ってるし。
夕食食べるだけで飛行船?せめて車で行ける範囲にしてほしい。
ああ、変な契約しちゃった。ほんとに。





豪華絢爛、とはこのことを言うのだろうか。
ゾルディック家は毎日毒が入っている以外(私は普通のを用意してもらっている)なんとも夢の世界のような食事風景で
金を湯水のように使う人初めて見たわ…とか思わず呟いてしまうくらい豪華だ。

やはり、何かが違う、この一家。


「…イルミさん」
「なに。口に合わなかった?」
「いえ…目ん玉飛び出るくらい美味しいです」
「そ。」
「あの、いつもこんな感じですか?」
「何が?」
「私が知っている外食と著しく異なるもので…」


高級中華料理店貸切って…。


「確かに急だったから微妙だよね」
「え!いや、違う!そう言う意味じゃなくて!」
「違うの?」
「違います!あの、えっと…なんでもないです。とっても美味しいです。お釣りで星が買えるぐらい満足です」




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