ハンター | ナノ
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今までの全てを失い薄っぺらいはずの世界に入り込み5年が経ったが、
私は相変わらず元の世界には戻れていない。
この世界を読者として見ていた頃が遠い昔ようです。
あの爆発音、あれに気づいた人他には居たのだろうか?
もし居たとしたらその人達も散り散りに何処かへ飛ばされてたりするのだろうか。

私は世界に拒絶されたとか、そんな特別な状況ではないんじゃないかと思っている。
元の世界で悲観するような特別な人生を歩んできた訳でも
特に変わった環境にいた訳でもない。意識しなければ見落としてしまう
所謂モブキャラ的なそんなポジションだった。それはまるで雑草の如く、いつの間にやら消滅しまた生まれるはずだったに違いないのだ。だから敢て私を選んだのではなく
偶然投げた石が当たったのが私だった、ということだろう。
世界に弾き飛ばされた…っていう感じだろうか。
そんな状況自体が特別と言えばものすごく特別なんだけど。
当たりくじなのかはずれくじなのか運がいいのか悪いのか。表裏一体である。
かといって、今の生活が特に特別なわけでは無い。場所…世界が違うだけで。
ただ…まさか最初に会ってしまったのが主要メンバーだっただけで…。
(しかも凶悪な方面の)今思い出してもへこむ。
なぜその隣にいた人の良さそうな散歩中のおじさんに声をかけなかったんだろう。

(だって、綺麗なお姉さんが好きなんだもん…!)

「殺すよ?」

綺麗な顔をピクリとも動かさず殺人予告。
なんて恐ろしい男…!!!!!




「――――私の馬鹿ああああ!!!!……ん?」

自分の叫び声に気付き耳元でけたたましく鳴る目覚まし時計を止める。

「ちょ…また夢見悪いな…」

何時もならあと5回は目覚まし時計のスヌーズ機能で寝たり起きたりまどろむところだが、あまりの夢見の悪さに起きることにした。

「イルミさんが夢にとか…不吉すぎる…」

最近仕事で会ったせいかも知れない。
はぁ、と溜息を吐き出して今日のスケジュールを確認する。

「…あー…夢の原因はこれか…」

開いたスケジュール帳の今日から1年先の予定には、殴り書きでZと書かれていた。





私は蜘蛛とサヨナラをしてから
会長に頼み込みハンター協会から簡単な雑務的な仕事を受けて
小銭を稼ぎ小さな店を持った。
店といってもハンター的な仕事ではなくて
「スープ屋」だ。

私の念は特質系であった。
(性格上、放出系か操作系だと思ってたのに…これも”トリップ特典”なのだろうか)
水から色々な物質であったり液体を作ることができるようになった。
しかし作れるものには限界があり調味料のようなものしか作れない。
塩とか砂糖、醤油にみりん料理酒…他にも色々なフレーバーの調味料まで作ることができる。それらは一級品の味だったりする。
特に私が作る塩にはヒーリング効果があるらしく
疲れた時に摂取すると体力回復があり、しかもお肌がツルツルに。

という、非常に怪しい上に
護身につながるとは思えない念を取得した私は半ばやけくそでこの店を開いた。
私の作った調味料でできたスープは若返り効果があるとかないとか巷で有名になり
しかも怪我の治りが早くなるとかいう噂まで広がり
其処らへんのOLさんから強面のハンターまで色々な方がこぞって来店する様になって
予想に反してとても繁盛している。結構高い値段設定にしているのにすごく売れる。
(おいしいのを作るのにすごく体力(オーラ)を使うから値段も高くしてみた)
ハンターの人たちは死活問題だし、高額の支払いには慣れてるから
そんなに不思議ではないけど…。なんだかスープだけで高額な請求をするのは気が引けるのでおいしいパンをつけたりしてるがOLとか主婦とか普通の生活水準の人がこんなにくるなんて意外すぎる。

どの世界でも時代でも皆若さの虜なんだなと遠い目をしながらいつも仕事をしている。

しかしこの能力…。

(特質なのに、このカリスマ性のなさは異常だと思います。)
と、まぁ自暴自棄なり色々なものをやけくそに作っていたところ毒が作れてしまった。
(ペロリと舐めたら1ヶ月まともに動くことができなくなってしまった)

(言いたい事も言えないこんな世の中じゃ…。)
と年齢がバレそうな事を心の中でつぶやきながらも
これは新たなビジネスに繋がる!とまさかの商魂が芽生え
裏の世界の人たちに特製の「瀕死請け合いな”調味料”」を売ったりして
荒稼ぎをするようになった。
更には毒が薬になることを思い出した私は
もしかしたらこれはちょっとした念ぐらい除してしまうことも可能なんじゃない!?
的なよくわからない方向に思考を巡らせたり
充実(?)した日々を送っていた。

そんなある日店の電話がジリリとなる。

「はーい、ありがとうございます!スプーンです」
(スプーンというのは、店の名前でスープを飲む時に使うものだからと安易な理由でつけた)
『や。久しぶり』

―――ピッ、ツーッツーッ


普通に出たのはいいけど、その声は聞き覚えがあり
嫌な予感しかしなかったので思わず終話ボタンを押した。

(え…何で。ちょっと、えー嘘だ。怖い怖い怖い。何で?そうだよね?今の声絶対そうだよね?)

急いで電話線を引っこ抜き携帯電話の電源をOFFにして店の看板を準備中にする。
いざとなったら無駄だと知りながら隠をして布団を頭から被る。



「なにしてんの?」
「…マジか」

もう居るならいると言って欲しかった。
何のために電話したんですか、貴方は。

何故か私の寝室のドアののところに寄っかかっている彼は相変わらず表情を変えることなく冷めた目で布団から顔だけ出した私を見下ろしていた。


―――――

しかし、名前変換が出ない話だなぁ…
念能力についてはかなり適当に考えてるので矛盾だらけです。

前サイトより転記(3/22)

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