「****、**************」
 
いつもと同じ朝が来た。

俺はだるい体を半ば無理やり起こし、くああ、と大きく欠伸をしながら食パンを二枚トースターに放り込む。
その間に、洗っておいた黒色のカッターシャツを袖に通し、ネクタイを椅子にかける。ズボンは左足から先に入れる。この作業は、体が嫌と言うほど覚えているだろうし、きっと寝ぼけていたとしても同じ動作をしているはずだと思えるほどには、俺にとっては日常茶飯事だった。
食パンだけじゃきっと足りなくなると思い、いつも他に三品ほど適当に見繕うのだが、自分が食べるだけだと思えば多少雑でもいいか、なんて思ってしまう。油を引いたフライパンに、卵を二つ落とす。数分経ったところで、白身同士がくっついた目玉焼きがあっという間に出来上がった。その余熱でハムとベーコンを焼き、目玉焼きと同じ皿に乗せた。
丁度タイミングよく、食パンがトースターから飛び出る合図が聞こえたところで、俺は冷蔵庫から加糖のコーヒーとミルクを取り出し、野菜がない事を思い出し予め買っておいたプラスチック容器に入っているカット野菜を取り出す。ついでに昨日灰音さんから貰ったかぼちゃのキッシュの残りを温めて、食卓に並べれば品数の多そうな健康的な朝食にも見える。

「いただきます」

自分はアルビノだ。と言っても、この日本でアルビノが珍しいかと言われれば、実際そこまででもないのではないか。まあ自分の知り合いに自分と同じようなアルビノはいないかられっきとした証拠や根拠があるわけでは無いが。そのせいだろう、普通の二十代男性に比べて俺は肌の色素が薄い。良く言えば美白、悪く言えば病的な白さなのだ。
それでも食べる量は天狐から貰った力を使うために過去よりかなり増えた。昔(タイムトリップする前の話だから、昔と言っていいのかはよく分からないが)はたぶん一般男性と同じくらいかそれより少な目だったような気がするのだが、やはり人ならざる身体能力にはそれくらいのデメリットは付き物か。
昨日の縁さんのメールに返信を打ちながら、ゆっくりと箸を進めていく。洋食が好きなのはいいが、どうもナイフとフォークで食べるよりも箸で食べている時の方が落ち着いてしまう。日本人だからか、はたまた実家にいた時の習慣か。おそらく後者だろう。

『縁さんへ。わざわざご心配ありがとうございます。縁さんにはお話しますが、俺、あの後縁さんが忠告してくれた通り、手持ちのライターで手紙を炙ってみたんですよ。そしたらまあ笑いそうになりましたが、貴方の予感していた通り、俺の手紙には観覧車の印はありませんでした。
ですがどっちにしろ、俺の気持ちは変わっていません。それが俺を嵌めようとしている者の仕業か、それとも俺と灰音さんを遠ざけようとしている者の仕業が、はたまたそれ以外の外部からの隠喩なのかはわかりませんが、それを確認しに行くつもりですから、何であっても俺は怯みません。俺はただ、この誘いに行かなければいけない―――そう思う気がするのです』


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