「*******、*******」


「だから時間がないと言っている。俺はお前と雑談を交わしに来たんじゃないんだ」
「ほう?しかし汝がわざわざこちら側に顔を出すとは、何か話があって来たのだろう?そうでなければ、汝が我に会いに来る意味が分からない」
「意味深な言葉ばかり嘯いて、俺を攪乱させたいのかもしれないが、俺はお前を利用しているだけだ。勘違いするな」
「まあそうかっかするな、せっかくお前が別の道を歩み始めたことに手を叩いてやると言っておるのに、そうも殺意ばかり向けられてしまっては、我もやる気が失せるのう」

ため息をわざとらしく吐く彼は、ここの唯一の住人である。住んでいるのは彼だけで、他にも何も知らないであろう神主や巫女は何人か見かけたことがあるが、今日は姿が見えない。せめていてくれたら気持ちも楽になったかもしれないのに、今回に限っていないのは、彼の計らいだろうか。

「さて、おそらく汝は我にこう聞きたいのだろう。『今回自分が別のパラレルワールドを歩めたのは、お前の意志か』」
「……」
「答えはイエスとノー、半々と言ったところじゃ。ただ我は判っておろうが、代償―――つまり等価交換するための媒体がないと、力を使うことが出来ない。いわば、いけにえみたいなもんじゃな」
「だが俺は……」
「そう、代償を支払った覚えが無いのじゃろう。我は我慢の出来ない神じゃから言ってしまうが、その代償は汝がパラレルワールドで見せてくれるあがき、じゃよ」
「……」

悪趣味め、と言いかけたがその悪趣味で自分は救われていることを実感せざるを得なかったのもまた事実だった。つまり簡単に言ってしまえば、今まで俺が別のパラレルワールドで悪戦苦闘しながら頭領―――灰音さんを救おうとした思い出、出来事をこの神はにたにたしながら酒のつまみにでもしていたのだろう。もっと簡略化して言えば、面白い映画を見せてくれたからチケット代を払う、と言ったところか。

「しかし汝は驚きじゃのう、ここまで何度も繰り返して彼女を救おうとしているのに救えない。しかしそれに心を壊されることもない。ふふ、もしかしたら汝は我が思っているより冷血な仕事人間なのではないか?」
「……どうだろうな。傍観者みたいな言い方をしているが、知らないふりをして言っているのか知らないが、俺が彼女を殺したルートがいくつもあるのを、お前は知っているだろう」
「如何にも。だから我は最初、汝は絶対逃げ出すだろうと思っておったのじゃ。しかし今となっても我にこうした態度を取れるということは―――いやむしろ、その方が狂っておるのかもしれんのう」


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